第54話 不穏な言葉
本格的に研究ライフがはじまって。
研究所に泊まる日が増えて来た。
正直めっさしんどいんだけどさ。
動物実験で、ネズミに新薬飲ませて24時間後にどうなってるか調べたり。
薬漬けにしたネズミを交配させて、生まれた仔ネズミのスペックを調べたり。
僕らの研究テーマは「フレッシュゴーレムの身体組織の潜在能力強化」だからね。
生物をフレッシュゴーレム化すると、その素材が生前セーブしていたリミッターが外れるんよね。
だから素材の潜在能力の底上げをしておくと、完成品の性能が上がるわけだけど……
「人間相手に発生から弄るのは許されませんしね」
研究室でヒュウマさんと2人で打ち合わせ。
向き合って座り、2人して水を飲みながら。
「そうなんよなぁ……やってみたい誘惑には駆られるけど、そこは一線引いておかんと」
彼女とそこの価値観と倫理観は一致してるのが僕は嬉しい。
でもねぇ……できないんですよ、で終わっちゃいけないんだよね。
研究ってやつは。
「古代王国時代はどうしてたんでしょうね? 素材。人間が素体になってるフレッシュゴーレムはざらですけど」
確か古代王国では、王国の人間は身分を問わず基本的人権と言うものが設定されていて、理不尽に命を奪われることは無かったそうだ。
それなのに、人間素体のフレッシュゴーレムがざらって……
「そりゃ、死後に献体してもらったか……ケットシーを使ったんちゃうか?」
あぁ、そっちか。
確かにケットシーなら尻尾と耳を取り除けば、ヒュームとあまり外見変わらんしな。
ありえるよねぇ……
古代王国時代は、人間なのはヒュームだけだったわけだし。
でもそんなの、今じゃ許されんよ。
古代王国時代なら、ヒューム以外の種族限定で、受精卵の段階からフレッシュゴーレムの素材を作っていくことが許されても。
今はそんなの絶対許されない。
流石に。例えこのドレワールでも。
せいぜい身売りせざるを得なくなった人間を殺害して素材にするのが限界だ。
無論、これも僕的にはアウトだけど。
……それが追剥や邪教神官だったら?
いやまあ、流石にそれでも発生から弄るのは出来ないわ。
殺して素材にするのはやるけどさ。
……って、言いながら
ふと、思いついた。
「ケンタウロスを使うのはどうでしょう?」
「……ケンタウロスか」
ケンタウロス。
上半身が成人男性、下半身が馬である怪物。
一応、人語は話すんだけど……基本的に野蛮で邪悪なんだよね。
位置づけ的には「強く賢いゴブリン」と言って差し支えない。
どう扱おうと誰も文句を言わない種族だ。
雄しか生まれず、繁殖には人間種族の女性を利用する。
生まれながらに槍と弓、棍棒の扱いに長けていて、そして嘘を吐くのが上手い。
本当に厄介極まりない化け物だけど……
基礎筋力が人間よりまず高いし、加えて成人男性の上半身を持ってるから、そこのパーツを取ることができる。
……ケンタウロスの受精卵なら、人間じゃ無いから発生から弄っても許されるよね。
「卵子はどうするんや?」
「雌オーガを捕まえて来て、そこから取ればどうですかね? 人間相手に受精可能なら、オーガならいけるかもしれないし」
オーガ。
牙があるガチムチのヒュームに、頭に2本の角を生やさせた姿の怪物。
食人鬼であり、人間を好んで捕食する。
知能はゴブリン並みに低く、邪悪で野蛮。
こいつらも別にどう扱おうとどこからも文句は出ない。
なので
「……検討してみる価値はあるなぁ」
よしっ。いっぺんそれを試してみよ!
ヒュウマさんのその一言で、僕らの方針が決定した。
早速、所長に許可を取らないと。
「僕が所長に依頼書出してきますので」
共有の棚から「研究材料発注書」を取り出して、自分の机で書類作成に勤しむ。
そしてケンタウロスと雌オーガの確保依頼を出す、組織的な要望書を作成する。
数分で書類が出来上がり。
「では、行ってきますね」
そして僕は所長室に向かい
そのドアの前に立ったとき。
そのときに、聞こえて来た言葉。
それが、僕を停止させた。
それは……
「エリオスさんの下で働く日が楽しみです」
……エリオス?
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