第53話 ベネットさんの奮闘

 ベネットさんは歩いていく。

 ベネットさんにくっつけた身体は、下着姿のほっそりボディにした。


 旦那さんに「奥さんってどういう身体でした?」と質問した上での判断だ。


 で、ざぶざぶという音を立てさせつつ、湖に入水させていく。

 スピードは少しゆっくりめ。


 ……僕の制御の問題があるからね。

 あまり速くは動かせないんだ。


 ネタバラシをしてしまうと。


 ベネットさんにくっつけている身体は、実は実体じゃない。

 幻影なんだ。


 ただの幻影じゃないぞ?


 音声付きの幻影だ。

 足音とか、水を掻き分ける音とか。

 そういう、幻影の実在をサポートする音がつけられる、高級な幻影。


 これが魔力魔法第6位階の魔法「幻影」の効果。

 術者の制御でどうにでもなる幻影を作り出す。


 ……そして逆に言うと、制御しないと維持できない幻影。


 僕が頑張るのは、ベネットさんの幻影ボディが完全に水没するまでだ。そっから先は泳いでる風を装って、水面を移動してもらえば問題ない。


 そして目論見通り、身体が完全に隠れる形になったとき。

 ベネットさんは首から下を水面下に隠して、ゆっくりと前方へと泳いでいる風を装って近づいていく。


「落ち着いて待っててください! もうすぐ助けますから!」


 バシャバシャしている溺れているように見える女性。

 そこにベネットさんが近づいていく。


 ここで万一本当に溺れている女性だったら、念動力でこっちに引っ張って来て救出。

 そして予想通り、スキュラだったら……


 溺れている女性は突如、溺れるのをやめた。


 ……あ、やっぱり。


「いただきまあす!」


 溺れていた女は本性を現した。

 大方の予想通り、水面下には黒い犬の集団と、蛸の触手が隠れていて。


 蛸の触手で、ベネットさんを捕らえようとするのだけど。


 その前に。

 ベネットさんが浮かび上がった。


 ……生首で。


 スキュラは驚いたのか、目を丸くした。


 その、驚いているスキュラにベネットさんは


 すうう、と息を吸い込む仕草をして


 ぶおおおお


 息を吐き出した。

 事前の打ち合わせでは……麻痺のブレス。


 それをスキュラの顏に吹きかける。


 そこに合わせる形で。


「マナ ステル アンチェン」


 僕は魔力魔法第4位階の「麻痺」の魔法を唱える。


 麻痺ブレスと麻痺魔法のツープラトン。

 どっちかは掛かるだろ。


 そしたら


 スキュラはビクンと震え。

 プカー、と浮かび上がった。


 ……いっちょあがり。




「いやあ、助かったわ」


 次の日。

 研究所でヒュウマさんに、革袋に詰め込んだスキュラの骨を引き渡す。


 ……ボーンコレクターと言われてた時代に身に着けた技能がここで役に立つとは思わなかったな。

 あの後、その場でスキュラを解体。

 骨を回収した。


 ……これを毎回の戦闘時にあのときはやってたんだよな。僕。


 今回は骨髄液を得るという大義名分があったから堂々とやれたけど。

 そういうの無しで毎回やってたら、今度も爪弾きにされる予感が僕にはあった。


 ……暴走しない様にしないと。


 そんなことを考えながら、僕はヒュウマさんにこう返した。


「まあ、僕も仲間ですし。研究所のためならこのくらい」


 これに関しては嘘では無い。

 研究所は僕に仕事と、研究開発という夢を与えてくれた場所だしね。

 恩返しはさ、させてもらわないと。


 本当に運が良かったよ。

 仕事の報酬に、すでに存在していたというフレッシュゴーレムの研究所に入れて貰えて。


 ぶっちゃけボーンゴーレムの研究より楽しいわ。

 フレッシュゴーレムの研究。


 こっちの方が生物を作ってる感じがするからね。

 はやく研究員としての仕事を回して貰いたい……!




 そして僕が、はじめての仕事として「フレッシュゴーレムの身体組織の潜在能力強化」のテーマにあたることが決定され。

 ヒュウマさんと組んで仕事をすることになった。


 これから、よろしく!

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