第51話 湖の思い出
異類接着剤。
これは、フレッシュゴーレムの可能性を引き上げるためには必須の薬剤で。
主に、キマイラやヌエなどの、複数種の動物を
何に使うかと言うと、別種の死体……つまり素材を、繋ぎ合わせる接着剤。
これが無いと、腕部だけ熊とか、頭部のみ人間で、身体はライオンだとか。
そういう自由度の高いフレッシュゴーレムが作れない。
それのストックが切れて来たとなれば、それは一大事。
ぶっちゃけ、時間の方が重要な面もあるから。
自分たちで取りに行けるなら行った方が良いというのは分からないでもない。
で、スキュラだけど。
水辺に棲みつく魔獣で、その姿は上半身がヒューム女性。
下半身が6頭の犬の集合体と、蛸の触手。
こんなんだから、無論異類接着剤の原料が取れる。
犬の身体の集合体と、蛸の触手の下半身を併せ持つせいで、水陸両用の魔物だ。
人間族を狙って捕食する魔物で、人気のない沼や湖で、突如溺れる美女に遭遇したら気をつけろ。
冒険者はよくこれを言われる。
そして特に魔法を使ったりはしない。
パワーオンリーだ。
……まあ、そういうのが一番厄介なのかもしれんけど。
だからまあ、研究所から家に帰って一番に報告をした。
「そういうわけで、明日いきなりだがドレワール湖に向かうよ」
「ドレワール湖!」
皆、驚く。
ここのところ僕が、仕事に掛かり切りで皆を放置していたからか。
「……ピクニック気分でしょうか?」
ベネットさん。
いやいやいや。
スキュラがいるんだから、そういうところではないはずですが。
言いましたよね?
仕事で行くんですよ。
その旨をもう1度説明したら、ネコが
「……先生の日々の忙しさを労う意味で、盗賊ギルドがくれた特別休暇じゃないんですか?」
ちがーう。
盗賊ギルドはそこまで優しくない!
……まあ、最近は僕は睡眠時間を2時間にまで削って、無理をしていたのは間違いないけど。
それでありえるとか思ってくれたのか……?
ちょっと、嬉しいけど。
そして次の日。
日の高いうちから、僕らはドレワール湖にやって来た。
湖面が太陽の光を反射していて、とても清々しい感じだ。
「しかし、湖の近くに行くなんてだいぶ久しぶりです」
戦士の装いフル装備のガイザーさんは楽しそうだ。
「そうですね」
そばをふよふよ浮きながら、楽しげにベネットさん。
……ちょっと気になったから訊いてみる。
「以前はいつ行かれたんですか?」
すると
「家の近くに湖があって、たまに2人でお昼ご飯を」
あ……
言ってから、色々思い返したのか。
一気に暗くなる。
……その湖の近くの森に、今度はハッグが住み着いたのか……
引っ越した当初は「条件のいい新居だ」なんて思ったんだろうな。
気の毒に。
世の中何が起こるか分からんもんだな。
「……あの頃は良かったよね」
ずーん、とした表情でベネットさん。
ふたりで子供を何人持つか相談したり。
家族が増えたら増築するか引っ越しするかで相談したり。
ああ……
そんなことを語っていたら
「助けてええ!」
バチャバチャ音がして。
見ると、綺麗めの女性が溺れていた。
湖で。真っ青な顔で
こいつは……
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