第21話 計画通り

 女性はトイレが男より近いから、チャンスは巡って来るよな。

 まあ、少し待ってみて。


 無ければ他の手を考えよう。


 と、思っていたら。


 女の子が仲間に何か言って、席を立った。


 ……おお。


 トイレだなこれは。


 そっと、僕は追跡する。

 暗視が効いて視力を増強し、透視も出来る。


 なので距離を置いて追跡するもまあ、苦では無い。

 

 で、しばらく追跡していたら。


 仲間からだいぶ距離を置いたところで、周囲を見回し。

 しゃがんでモソモソし始めた。


 ……多分おしっこかなー。


 流石に大きい方は可哀想過ぎるから、できればおしっこであって欲しい。


 で、それを見張りながら距離を詰め。

 射程距離まで接近し。


 彼女が用を足している背中を見ながら、準備する。


 片手で印を結んで集中しながら、様子を見守る。


「カーテル デンジ ステル……」


 そして魔法語の詠唱をそっとはじめながら。


 彼女はプルプルしながら用を足し、立ち上がって後始末をはじめる。

 そこは、武士の情けであまり詳しく見ない。


 で、後始末が終わったのか、その場を立ち去って仲間のもとに戻ろうとしたとき


「……アンチェン」


 集中しながら待機させておいた最後の魔法語を発する。

 詠唱が完成し、魔法が発動した。


 魔力魔法第8位階の魔法「麻痺の空気」


 その魔法使いの女の子の周囲の空気を、麻痺を引き起こすガスに変質させた。

 吸い込まなければ効果を発揮しない魔法だけど……


 女の子、ガクンと膝を突き、倒れてしまう。


 ……まあ、効くよね。

 僕は自慢じゃ無いけど、一応一流を名乗っても良いレベルの魔力魔法使いなんだから。


 さて。


 麻痺の効果は大体1時間くらい続くんだけど。

 急がないとな。


 そっと茂みから出て、僕はまずその倒れた女の子の服を脱がす。

 泣きそうな顔をしていたけど、しょうがない。

 別にレイプはしないから安心しろ。

 興味も無いし。


 で、女の子を下着姿にして。


 そっと彼女の仲間の視線から身を隠しながら


「デンジ スタイ オント ルゼオース」


 魔力魔法第4位階の「変身」の魔法。

 僕の愛用している魔法だよ。


 女の子の顔をね、重点的に見ながら詠唱した。


 ……顔をこの子に変えるために。


 見ている前で顔と髪型が自分のものに変わったので、女の子は絶望的な顔をする。


 ……良い表情だ。

 好感があるね。

 仲間想いってことだし。


 まあ、殺さないから安心して。




 で。

 彼女の服を着て、彼女の杖を持ち。


 彼女の仲間たちがいるキャンプに戻って行く。


 まず、魔力魔法第1位階の魔法「眠りの空気」の射程距離で。


「カーテル デンジ ビホルト ハタン」


 魔法詠唱。


 杖ありで唱えてるからね。

 威力は高いよ。

 女の子を麻痺させたときと比較して。


 発動。


 効果範囲内に居た彼女の仲間がパタパタ倒れていびきをかきはじめた。

 よっしゃ。


 効果範囲外にいた弓使いと、神官が駆け寄って来て。


「おい! ハロルド!」


「なんで急に眠って……まさか魔法攻撃か!? 起きろ!」


 倒れた戦士2名の覚醒を試みるんだけど。


 私はそんな2人の傍に近づいて


「何!?」


 一言。気遣いを連想させる言葉を。

 そして焦った表情を浮かべながら。

 こっそり印を結びつつ。


「おお。マルシーか! ハロルドとベルトーのやつが急に眠ってしまったんだ! これって……」


 僕は頷きながら


「カーテル デンジ ステル アンチェン」


 魔法詠唱。

 もう1回、麻痺の空気。


 発動。


 それと同時に、介抱に来ていた弓使いと神官も倒れた。


 ――計画通り。


 僕は会心の笑みを浮かべて、麻痺させて行動不能にさせた冒険者たちを見つめた。

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