第19話 この街の流儀と自分の方針
遺跡へのアタックの決行は明後日らしい。
その日に、問題の遺族が弁護士に連絡を取り、報酬の保証をするために、一番厄介な遺跡の入口の封印を解くそうで。
逆に考えると、相当優秀な弁護士を雇う予定だったんだな。
先祖代々の遺産を切り崩すんだし。
まあ、当たり前だけど。
盗賊ギルドの重鎮を訴えるんだしな。
「で、何で弁護士に報酬払うのが遅れるんですかね?」
「そりゃ、実際に弁護士に報酬を払うのが裁判が終わってからだからだよ」
モロス君との会話。
なるべく組織に馴染まないといけないしな。
「先払いにすると、持ち逃げするのがたまーにね、居るんだよ。で、この街ではそういうのが後払いの正当化の立派な理由になるんだな。……まあ、オレは外の世界のこと知らんけど」
モロス君。
彼は物心ついたときから盗賊ギルドにいるらしい。
彼は自分の生まれについては一切知らないそうだ。
そのことについては
「どーせロクなことじゃねぇんだろうし、知りたいとも思わんわ。外じゃオレらダークエルフは存在自体が罪なんて言いがかりがまかり通ってるしな」
なんて、軽い愚痴のように話していた。
ついでに
……そんな社会だから、ダークエルフは真っ当に生きられねえんだよ。
彼はそうも洩らした。
察するにあまりあるというか……
でも、安易に「分かります」とは言えないな。
ホント、何で数万年前に「創造神を裏切って、社会に牙を剥いた民族の末裔」ってだけでそこまで他人を差別して憎むのか分からない。
今は別に全員邪神の使徒ってわけでも無いだろうに。
で、そのくせ「現行で他人を食い物にしてる奴らに相応しい扱いをすると非難される」
矛盾してるよ。あいつら……
大体さ、禁忌だから研究してはいけないって言うのが僕には分からないんだよ。
実際、僕がボーン・ゴーレムの研究をしていたお陰で、そこからフレッシュゴーレムの研究に繋がる目が出て、そこが上手く行ったなら、不幸な目に遭った善良な夫婦が救われる目に繋がるかもしれないんだぞ?
最低限の倫理観……真っ当に生きている人に犠牲を強いない行為なら、見逃すべきじゃないのかよ!?
なんて。
モロス君と会話していると、どうにも自分が追い出されたときのことが刺激されて。
忘れるように努めて来たことが思い出されてしまう。
「……どうかしたのか?」
僕が黙り込んでいるのを問題視したのか、モロス君はそう気遣いの言葉をくれる。
僕は
「ああ、ちょっと全然関係ないことに思考が飛んだんです。すみません」
そう、ニコッと微笑んで侘びた。
……他人に差別される苦しみを知ってる彼になら、僕の悔しさを分かってもらえるのでは、とちょっと思ったんだけど。
そうでない場合のリスクがデカ過ぎるからね。
黙るしかないよ。
……実はネコを弟子に取った後も、僕は悪党狩りを控えているんだよね。
本当はすっごい欲しいんだけど。人間の骨。
それで彼女が僕から去って行くことがどうしても嫌だから。なんだかんだ言って、思い入れが出来ちゃったんだよな。
すでに作ってる作品についても、人間の骨の部分は悪党狩りではなく、多分「昔の人の骨を買って来た」結果だと思ってるんだろうなぁ……あの子は。
……なんて。
思考が嫌な方向に行ってしまうので、僕はあまり彼の身の上については考えないようにした。
「厄介な封印を解いて、その間って向こうさんは代替の防犯組んでるんですか?」
なので、仕事に関する話に切り替える。
するとモロス君
「前情報では、腕利きの冒険者チームを雇って、封印し直す次の日まで警備させる予定らしい」
……冒険者。
アチャー、だな。
冒険者は信用商売だから。
腕利きになればなるほど、金や暴力では転ばなくなるんだ。
1回でもそれをすると、後はもう仕事が無い状況になるから。
だとすると……
多分、盗賊ギルドは彼らを殺害する方向で考えているはずだ。
そっちの方が楽だからね。
僕は元冒険者。
そういうのはあまり、嬉しくはない。
……どうしようか。
しばらく考えて、僕は
「そこも僕に任せていただけませんか?」
そう、提案した。
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