第18話 そのままのキミでいて
「そういうわけで、どっかの金持ちの先祖代々の遺産を収めている遺跡を荒らしに行くことになったから」
「えっ」
あの後。
とりあえずの宿舎として、今回の入団クエストの増援兼お目付け役のモロス君の自宅に連れて来てもらった。
結構広い。
腕利きは嘘では無いんだな。
と……
それは置いといて。
モロス君の部屋の、ちゃぶ台の前で。
僕はネコに、今後の方針を伝える。
彼女だけ、ボーン・ゴーレムの見張りで聞いてなかったからね。
彼女、えらく驚いて
「先祖代々の財産を根こそぎ全部奪われたら、その人どうなるんですか?」
「手持ちのお金でやっていくしかないんじゃない?」
そうあっさりと答える。
すると
「……この街でそうなったら、悲惨なことになるような気がするんですけど」
「なると思うよ?」
僕は一切感情を交えず、予想できることをそのまま口にする。
すると
「……そんな」
……ネコ。
ちょっとだけ、ため息が出た。
「キミは犯罪組織に入るということの覚悟が足りないみたいだね」
「え……」
ネコは僕に叱られると思って無かったのか、困惑していた。
だから僕は自分の思うところを口にした。
「僕だって惨劇は可能な限り避けたいけど、こういうときは覚悟を決めなきゃいけない」
いいか、と前置きをして
この件のマトになってる金持ち、落ち度は確実にあるんだ。
それは、盗賊ギルドに楯突いたことだ。
そして楯突いた理由が「盗賊ギルドにチョッカイを出して、損害を出した身内が殺されたから」
同情の余地が全くない。裏社会的に。
裏社会の思考では、処罰しないわけにはいかない。
そうしないと他のヤツにたかられる。
そんな事態に自分を追い込んだそのバカが悪い。
殺されて当然。
この理屈をね、納得して受け入れないといけないんだよ。
この世界に籍を置くのであれば。
「私はベネットのためにこの世界に飛び込む覚悟を決めたときに、こういう事態は覚悟してました」
ガイザーさんが横から援護射撃を入れてくれる。
そういうの、ありがたいね。
「……夫が私のために覚悟を決めてくれたんです。私も一緒です」
ベネットさんはちゃぶ台の上でふよふよしながら援護射撃の援護射撃。
この夫婦は心配ないね。
……問題はネコだ。
彼女は……
僕らの言葉を聞いて、深刻な顔で俯いていた。
そして
「……せめて、その問題のお金持ちのことを少し調べませんか?」
「調べない」
そんなことを言って来たので、ピシャリと斬り捨てる。
甘いよ。
なんでですか、と言われる前に返す。
「結論はもう決まってるんだ。入団クエストを受けるって言う、な」
なのに、入団クエストを受けづらくなる情報を拾ってしまったらどうするんだ。
「僕たちが破滅させるのは、身の程知らずの逆恨みヤローだ。それ以上でも以下でもない。そう思うんだ」
……といいつつ。
実は半分くらい、僕自身への自己暗示もある。
知識欲と大義名分があったからこの世界に来たけどさ。
……実際に立たされると違うって部分はやっぱ、あるよな。
まあ、口にはしないけど。
確実に害悪だからな。
ネコは俯いて……
「分かりました……」
だいぶ長いこと考えて、その一言を絞り出した。
うん、よし。
だけど……
多分、このネコの感覚は大事だよな。
僕は早々に切り替えてしまったけどさ。
できれば無くさないでいて欲しいんだけど。
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