3章:暗黒都市とギルド加入クエスト

第15話 まずは紹介して貰おう

 暗黒都市ドレワール。


 元々、隣国である巨大国家アシハラ王国に対抗するため、自衛目的で同盟を結んだ都市国家群サウザントの構成国家のひとつ。

 サウザントに加盟している国は50を超え、そこには色々な国があるけど、ドレワールは特に異色。


 ここ、めっさ治安が悪くて。

 めっさ産業が発達してる。


 ……サウザントの加盟条件に「奴隷を使役する文化が無い」ってのがあるんだけどさ。

 ここの街、表向きは奴隷を持ってないことになってるのに。


 事実上、奴隷を使役する国なのよね。


 どういうことかというと……


 貧困層が、その対象になってるのよ。

 朝から晩まで低賃金で働かされて、使えないと判断されると容赦なくクビにされる。


 その代わり、働きが良ければ、そこから成り上がることもできる、という良いところもあるんだけどさ。

(こういうの、ドレワールドリームって言うらしいけど)


 まあ、厳しくてどす黒い街だわ。



 社会システムは一応王政。

 王様が王城にちゃんといる。


 ただし、政治は大臣が全部仕切ってて、王様はなーんもしてないらしい。

 そしてその大臣が、もれなく盗賊ギルドの幹部らしい。


 つまり、ここの街の実質的な支配者は、盗賊ギルドなんだ。



「ドレワールって、そこら中に死体が転がってて、日常的に殺し合いしてる街かと思ってました」


「そんなわけないだろ。だけど、普通では無いわな」


 事実、僕がボーン・ゴーレムを引き連れて街を練り歩いているのに、官憲が飛んでこないしな。

 多分、こういうことをしてる奴が珍しく無いんだ。


 ボーン・ゴーレムは何でも言うことを聞くし、効果時間永続だから、壊されない限りずっと仕えてくれるし。

 召使いとしては最高だものな。骨だけど。


 僕はネコに追加でこう伝える。


「……ここはスリが多いから、気をつけろよ? 財布を盗まれない工夫が必要だ」


「ええ、分かってます」


 ネコの声に緊張が混じる。



 ドレワールの街は、一見活気のある明るい街。

 食材の解体ショーをやってる飲食店とか。

 店内で収まらず、店外まで席を拡大して客に飲ませている酒場とか。

 様々な屋台とか。


 ここが盗賊ギルドに支配された暗黒都市だと想像しにくい。

 ここだけ見れば。

 

 だけど。


「そこのグループ、ちょっと待て」


 いきなり、声を掛けられた。

 見ると、それは官憲で


 2人組で、僕たちに質問してくる。


「……人間の死体を持ち歩くとはどういうことだ。事情を説明しろ」


 ガイザーさんが、布に包んで奥さんを運んでいたのが、どうも彼らにバレたようだ。

 それで呼び止められた。


 普通の街なら一発アウト。


 だけど


「ああ、すみません。彼女にこれから、寺院で蘇生魔法を掛けるために運んでいる途中でして」


 といいつつ、2人にだいたい100ゴルドずつこっそり渡した。


 すると


「……ならば仕方ないな。他の住人に見つかると印象最悪だから気を付けるように」


 ……普通の街だったら、冒険者登録書を見せろとか、住民票を見せろとか。

 色々言われるのにね。


 ここだとこれで行けちゃうのよ。


 ……役人の腐敗って、国の腐敗と比例関係にあるもんだしねぇ。


 と、僕は去って行く役人の姿を見送りながらそう思った。


「ありがとうございました」


 ガイザーさん、見つかって青くなってたのに捕まらずに済んだので、僕にしきりに頭を下げる。


「ああ、そんなの良いです。それよりも、二度と奥さんが見つからないようにしてください」


 そのたびに出費してたら、お金がいくらあっても足りないしな。


「……先生、手慣れてますね?」


 ネコが少し羨望の目で僕を見ている。


 それに対し


「昔、冒険者してたときに、掘り出し物のマジックアイテムを求めて来たことがあるんだよ」


 そう。

 アイツらと組んでたときに、ちょっと来たことがあるんだ。


 そのときの経験。

 経験なんだ……。





「……ここに入るんですか?」


 汚い暖簾に粗末な席。

 だけどいっぱいの酔客。


 見るからに安酒を提供する酒場。


 そこに入ろうとすると、ネコに呼び止められたんだ。


「マギ先生、飲むときはこういうところ選ばないのに」


 まあ、いつもはそうなんだけど。

 僕は飲むときはもう少し上を利用する。


 だけど……


「飲むために入るんじゃ無いんだよ」


 今回は違うんだな。


 ……こういうところ。

 犯罪者が使い捨ての仲間を拾うために来る場合が多いんだよねぇ。




 店内は賑わってた。


 で、僕は……


 その中で、身成が良い人間を探す。

 この酒場で、あきらかに上のランクの人間……


 見回す。

 そして……


 居た。

 ヒュームの男だ。

 年齢は30代後半かな?


 僕は、他の仲間に待機をお願いし

 単独で行った。


「こんにちは」


 ここで僕は、自分の外見を最大限考慮し、男の関心を買えるよう気遣いながら彼に接触したのだ。


「お、私に何か用かな?」


 いきなり超絶美少女が頭を下げて来て、自分と話したそうな仕草をしているので、悪い気がしないのか。

 拒絶はされず、話だけは聞いてもらえる。


「実は私、冒険者なんですけど。ここで仕事を貰えないかなと思いまして」


 ペコペコしながら、一人称まで変えて話し掛ける。


「この街のことを教えていただけないかな、と」


 すると


「ああ、いいよ。大変だね冒険者も」


 ……許可された。

 よし。


「ありがとうございます。……あ、お酌しますね」


 そう言って、僕は彼の隣に座った。

 まあ、男はこういうのは一般的には好きだから


 機嫌が良くなってるのには気が付いた。


 男は東洋の酒である「米酒」を飲んでて。

 僕はその杯に、徳利の中の透明な酒を注いだ。


 そして男がそれを呷るのを見届け


「米酒ってアルコール度数高いのに、いい飲みっぷりですね」


 そう、褒める。

 アルコールに強いことを褒められて、男の機嫌が良くなる。


 その心の隙に、僕はこっそり片手で印を結び


「マナ オント オガ ベスフ」


 声は小さく。気づかれにくいように。

 そして言った。笑顔で。


「本当にお酒に強い男性はかっこいいです」


 すると


「何でも聞いてくれ。私に分かることならなんでも教えてあげるよ」


 ……よし。


 魔力魔法の第5位階「魅了」の魔法。

 その効果は「誉め言葉の効果増強」

 発動直後に発した言葉で上がる好感度を、親友レベルにまで高める魔法だ。


 彼は僕に、アルコールに強いことを褒められることに悪い気がしない。

 僕はそれの確証を得たから、行使した。


 結果はこの通り。

 今の一言で、彼は僕の親友になった。


 ……まあ、このブーストされた好感度は、1週間で切れるんだけど。

 でもま、今だけ親友なら何も問題ないわけで。


 だから僕は自分の話を彼にはじめる。

 こんな切り口で


「……実は私、盗賊ギルドでの仕事を探しているんです」


 ……普通ならありえない話題転換であり、これでホイホイ乗るような人間はいない。

 だけど……


「……そうか。ならば私がキミの力になることができるかもしれないな」


 声を潜めて、彼からいきなりそんな返事が返って来た。


 ……いきなり当たりだよ!

 僕はツイてるね!

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