第12話 ワケアリ夫婦の詳細

「で、僕に何の用だったの?」


 家に帰って来て。

 とりあえず3人分のお茶を出した。


 一応来客だし。


 お茶くらいは出さないと。


「どーもすみません」


 しきりに頭を下げてくる旦那さん。

 ええと……名前はガイザーさんだっけ?


 僕ら3人は、リビングでひとつの丸テーブルにつき、生首奥さんは宙に浮いている。


「挨拶は良いから早く話して」


 そう促すと


「実は……」


 話してくれた。



 どうも彼らは、奥さんが生き返る目が無いかを探しているらしい。


 なんでも、彼ら夫婦は結婚と同時に森の傍に小さい家を建てて、一緒に住んでいたらしいんだけど。

 旦那さんは戦士の道を諦めて、猟師に鞍替えして働き。

 奥さんはその旦那の稼ぎで家を守る。


 そういう、テンプレ夫婦をやってたらしい。


 でも、そんな日常が、ある日突然壊れた。


 ……旦那さんが家に帰ると、奥さんが首だけになってた。

 首だけで、台所の竈に放り出されてて。


 竈には、大鍋があって、煮炊きした跡があった。


 包丁とまな板は血まみれで、そこで大量の肉を捌いた形跡があった。


 で……


 何故か、奥さんは生きていた。

 いや、正確には生きてはいなかったんだけど。


 アンデッドになってたんだな。


 で、旦那さんに何があったのか涙ながらに訴えた。


「あなたの留守中に、ものすごく大きなお婆さんがやってきて、私を食べてしまった」


 旦那さんはそのことを知り、嘆き悲しみ。


 即座に森に撃って出て、奥さんを食べた大きな老婆……多分ハッグ……こいつを討伐した。


 ハッグというのは、東洋では山姥とも呼ばれる魔物で。

 外見は簡単に言うと、容貌が最悪で、体格が羆くらいある老婆。

 羆のような爪を持っていて、それはおまけに毒まで備えている。

 そして人肉が大好物で、女性や子供をよく攫う。

 加えて、魔力魔法を第4位階まで使うそうだ。


 主な住処は森だとか、山だとか、洞窟だとか。

 人があまり住みたがらないところだね。


 ……運が悪いことに、この夫婦は、ハッグが居を構えた森の傍に家を建てていたんだ。

 気の毒な話だ。


 で、一縷の希望で、ハッグを倒せば妻は元に戻るのでは? なんて夢を見たそうだけど。

 そんなことあるわけなくて。


 ハッグを倒しても、奥さんは生首のまんま。


 このままだと自分たち夫婦は人間社会でやっていけないから、なんとか奥さんを生き返らせて、元の様な夫婦に戻りたい。

 そういう願いを持って、あちこち巡っているそうな。


 ちなみに元々この夫婦、同い年の男女だったらしいけど。

 生首奥さんは20才行ってないように見えるのに、旦那さんはどうみても中年だから。

 

 ……だいぶ長いこと、この状態のまんまなんだなぁ。


 可哀想だなぁ。

 でも……


「……結論からいうと、蘇生魔法は奥さんには効かないよ。……アンデッドに転生してしまってるからね」


 ここだけはハッキリ言ってあげないとな。

 事実だし。


 僕がそういうと、えらくショックを受けていた。


 ……状態が状態だから、寺院に相談することもできんかったんだろうな。

 こんな状態の奥さん、寺院に連れて行ったら即浄化されて昇天させられるだけだし。


 だから、知らなかったか。


 アンデッドになると、蘇生はほぼ不可能だってことを。


「そんな! なんとかならないんですか!」


 受け止めきれず。旦那さん……つまりガイザーさんが僕に食って掛かる。

 気の毒だけど、これはどうしようもない。


「……一応、法力魔法の最終位階の魔法で、術者の命と引き換えに願い事を1つ叶える魔法があるけど……それ以外は、まぁ無理だろうね」


「そんな……!」


 しょうがない。事実だ。

 旦那さんは絶望しているけど、しょうがないことなんだ。


 すると


「あなた、私は別に良いですよ。この状態であれば、私は病気にならないし、あなたより先に死ぬことも高確率で無いんですから」


 生首のまんまの奥さん……ベネットさんが、ガイザーさんを励ました。

 ……一番辛いのあんただろ、と僕は少し思った。


 うーん……できることなら助けてやりたいなぁ。

 実は1個だけ、手が無いことも無いんだけど……


 そう、思いながら


「僕が思うに、奥さんはスクライルっていうアンデッドになってると踏んでるんだけど……ベネットさんだっけ……? キミ、毒の息を吐き出したり、生き物の活力を吸い取る能力を身に付けてない?」


「えっと……ご存じなんですか?」


 奥さんは驚いた目で僕を見る。


 ああ、やっぱり。


 スクライルは頭蓋骨だけの姿のアンデッドモンスターで、生者の活力を奪うエナジードレイン能力と、毒と麻痺、石化の効力を持つブレスを吐く能力がある。

 ベネットさんは肉がついてるけど、そこは多分、彼女が人間の意識を保ってるあたりに理由があるんだろうね。


 ……話は逸れるけど、スクライル化してるなら、猶更寺院には行けないわ。

 行ったら確実に大騒ぎになる。

 戦争状態にすらなるかもしれん。


 そして。

 自分が気になっていたところを質問し終えたので。


 僕は言ったよ。彼らに


「実は1個だけ、手が無いこともない」


 彼らにとっては唯一の希望になるかもしれない話。

 だけど……


 同時にそれは、途方もない話。


「フレッシュゴーレムって知ってるかな? 生き物の死体を活用して作る魔法生物なんだけど」


 これなんだよ。

 ……さて。

 彼らはこれを、どう受け止めるんだろうか?

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