第11話 少年だと思ったのに

「息を止めろ!」


 まず思い切り叫んだ。


 そして即座に片手で印を結び


「カーテル デンジ ビホルト ハタン!」


 魔力魔法第1位階の「眠りの空気」を唱える。

 指定の空間の空気を、睡眠ガスに変質させる魔法だ。


 すると、ブラックドックのうち、数匹が眠りに落ちる。

 そして眠らなかったヤツが、僕という新しい獲物の存在に気づき、襲って来る。


 わわっ


 逃げる。


 逃げるともさ。


 ……ボーンゴーレムが待機してるところへ。


「行け骸骨兵たち!」


 3体の作品に僕は命令を出した。

 可愛い僕の骸骨たちは、僕を追って来たブラックドックたちに、手に持つ武器で勇敢に立ち向かって行く。


 ……って。骸骨兵に心は無いんだけどな。あくまで人形だし。


「カーテル デンジ ビホルト ハタン!」


 って、そこですかさず眠りの空気の魔法が飛んで来た。

 やったのはネコだ。


 僕と違って、まだ導師クラスに達していないから、杖というか、発動体が手放せないけど、使うタイミングは申し分ない。

 センスはあると思う。


 僕の指導の賜物だと思うと、少し誇らしい。


 骸骨兵は眠ったりしないので無問題。


 彼らは武器を振るい続けて、寝ているブラックドックにとどめを刺していく。

 飛び散る血飛沫。


 うむ。


 ……別にブラックドックの骨は要らないんだよな。

 犬の骨ってプラス要素をまだ見出して無いし。


 見出してもいない可能性の問題だけで、骨を取るという大変な作業をする気になるほど、僕も探求心は深くない。

 そもそも、骸骨兵にも電撃の魔法効果薄いしなぁ。


 そしてそんなことを考えていたら


「助かりました。ありがとうございます」


 ……ブレストアーマーと具足と籠手で身を守り、弓と槍で武装した黒髪の中年男性と。


「……ありがとうございます」


 宙に浮いた、性別不詳の栗毛の人物の生首が、僕に話し掛けて来た。


 んん……?

 どっち? この子?




 口調はなんか女性っぽい。

 声は低くない。


 でも、10才から14才の少年って、別に女性と大差ない声でも変では無いよな?

 生首、髪の毛も言うほど長く無いし。


 でも口調は男の子は普通、ずっと男の子なもんなわけで。

 ということは……


「女か……」


 ガックリきて、肩を落とした。


 すると僕にお礼を言って来た2人? が


「ど、どうされました?」


「何かあったんですか?」


 慌てる。

 なので


「……いや、いいよ別に。少年の生首に出会えると思って、気合入れた格好して来ただけだから」


 これを口にすると、何を言ってるんだこの人? という目で見られた。

 理解はされないよな。分かってるよ。


 まあ、このまま帰るのも何なので


「僕はマギで、こっちが弟子のネコ」


「ネコです。よろしくお願いします」


 自己紹介と、弟子紹介。

 ネコは僕の恥にならないように、きっちり頭を下げてくれる。

 ありがたい。


 すると向こうも礼儀として


「私はガイザーで、こっちが……」


「ガイザーの妻のベネットです。よろしくお願いします」


 ……生首はやっぱり女だった。

 しかも既婚者だった。


 辛い……!




「で、ガイザーさんとベネットさん。あなたたちはここに何をしに来たの?」


 村人の噂にもなってるし。

 訊いておかないと。


 僕も一応、あの村の住人なわけだし。


 すると


「……ここに、ボーンコレクターという2つ名の、死体を愛する死霊魔術師が住んでいらっしゃると聞いて」


 そう、ベネットさんの旦那さんのガイザーさん。

 彼はまあ、イケオジだと思う。


 少年趣味の僕の守備範囲じゃないから、何も思わんけど。


 そんな彼が、聞き捨てならんことを言った。


 前も言ったかもしれないけど、ボーンコレクターは僕の2つ名だ。

 不名誉な。


 ちょっと材料が欲しくて、悪人を仕留めるたびに解体して骨をいただく行為を繰り返していたら。

 そんな悪口を言われるようになった。


 そのせいで、信頼してた奴らとの絆も破壊され……


 ……と、少し暗くなりそうになったけど。


「……ボーンコレクターは僕だよ。一応言っておくけど、僕は別に死霊魔術師ではないし、死体愛好家でもないからね?」


 骸骨兵が大好きなだけで。

 そう、付け加える。


 そして


「……とりあえず話は聞こうか。僕を探してくれていたみたいだしね」


 そう言って。

 僕はついて来てと言い放ち。


 カンテラ片手に来た道を戻り始めた。

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