第6話 弟子にして下さい!

 食いついた。

 連中にとって、女の肉は美味いはずだから、ここで無防備に湖に浸かってたら、きっと釣れると思ったんだよな。

 目論見通りいけて良かったよ。


 さて。


 タラスクのやつ、思い切り僕の太腿に噛みついてるけど、一向に血の味がしないから戸惑ってるようだ。


 力の盾の効果で、物理ダメージを一定量無効化する状態だからね。

 今の僕。


 傷がつかないんだから血の味なんてするはずがないよ。


 さて。

 グズグズしてるわけにはいかない。


 力の盾が切れる前にしなきゃいけないことがあるからね。


 まず。


「マナ デンジ エノカルフ ベクタ」


 第7位階の魔力魔法「念動力」

 射程視界で、離れた物を自在に動かせるようになる魔法。

 で、扱える物の重さは本人の筋力準拠。


 続けて。


「カーテル デンジ ドルムト ヴィータ」


 第6位階の魔力魔法「酸の空気」


 指定の空間の空気を、酸性ガスに変質させて敵を攻撃する魔法。

 僕はこの魔法詠唱を終える前に、目を閉じて息を止めた。


 それと同時だった。


 ギアアアアアア!


 タラスクが悲鳴をあげた。

 そして僕の太腿から牙を外す。


 酸の空気を吸い込んで、ダメージを受けたらしい。


 こいつら、肺呼吸なのよな。

 水中に棲んでるけど。

 ようは普段は潜水状態なんだよ。


 さて、急ごう。


 僕は目を閉じたまま移動して、酸の空気の効果範囲外に逃れ。

 ネコに指示を飛ばす。


「ネコ、準備して」


「はい!」


 もっとも。


 背負い袋の中に、一振りの刀を突っ込んであって。

 それを引き抜くだけなんだが。


 準備って言っても。


 準備時間、2秒。

 手早く、簡単に。


 段取りは大事だよ。


 ……突っ込んであったのは、少々上等の刀。

 通称・マスターカタナと呼ばれる量産品。

 現代刀は総じて古代刀と比較して性能低いけど、これは現代刀では比較的品質が良い部類。


 酸の空気を吸い込んで苦しんでいるタラスクを見る。


 ……逃げる前にカタつけないとな。


 幸い、ヤツは今、目が見えないし。

 やろう。


 僕は念動力でマスターカタナを抜刀させ、その切っ先をタラスクに向けた。

 僕の予想では……


 タラスクがパカッと大きく口を開ける。


 今だ!


 同時にタラスクは毒の息を吐き出し。


 その毒の息を吐く口の中に、合わせる形で僕はマスターカタナの刀身を深々と突き刺す。

 こいつ、身体の外身は硬いけど、口の中は柔らかいからね。




 湖から上がって、タオルで身体を拭きつつ。

 念動力で死んだタラスクを岸に引っ張り上げる。


 念動力、出力は本人の筋力の限界値が限界だけどさ。

 ……疲労の概念が無いんよな。


 だからこういうとき超便利。


 普通に手でやったらクタクタになる作業を、片手間にやれてしまう。

 使い勝手が超良い魔法だ。


「これ、どうするんですか?」


 ネコが訊ねて来たので


「解体するよ」


 そう答えながら。


 タラスクを仕留めるのに使ったマスターカタナを、タラスクをバラすのに引き続き使用する。

 まず首を落とし。

 足を切り離し。


 甲羅を2つに分けた。

 中には内臓が入っていて……


 尻の方に、大きな袋があった。


 ……タラスクのマグマの糞。

 そう呼ばれている、タラスクが天敵から逃げるときに使用するという、最後の手段。

 文字通り、ウンコに見える高熱の物体をケツから出すんだな。この竜は本気で逃げるとき。


 この袋が嵩が大きいので、火災用保存袋として重宝されてて。

 結構な値段で売れてしまう。


 まあ、そんなことよりも。


 骨だ、骨。


 僕はタラスクの内臓を取り去り、肉も回収し、後に残った残骸から骨を取り出した。

 一番欲しかったもの。


 それで僕がニコニコしていたら。


「……それをどうするんですか?」


 ネコが疑問に思ったのか、そんなことを訊いてきた。

 だから僕は、即答。


「実験に使うんだ」


「……実験?」


 ……その一言で、僕の研究者魂に火が付いた。


「骸骨兵作成魔法の研究だよ」


 骸骨兵はね、効果時間が永続なんだ!

 すごいだろう!?


 自律運動を続ける人形を作る魔法は他にもあるけど、そういうのは効果時間が限られてるのよ。

 永続ってところに魅せられて。


 この魔法を覚えて以来、ずっと虜だ。

 素材になる骨を混ぜあわせたらどうなるのかとか。

 素材の骨がどういう性質を持つかによって、出来上がる骸骨兵に差は出るのかとか。

 

 知りたいことが山積みだ。

 今回のタラスクだって、足が4本では無く6本というところに目をつけて、何か骸骨兵を作るときに面白い変化があるのじゃないかと……

 そういうことを早口で捲し立てると。


「な、なるほど……」


 ネコは絶対に分かってない顔で、そう返して来た。

 僕はそれを見て。

 つい熱くなってしまったと、反省した。



 そして街に帰る。

 街への道を歩いて帰りながら、今日獲得できた素材類を売り払うとどのくらい儲かるのかとか。

 タラスクの骨で試してみたいことを頭の中で組み立てて、ニタニタしていると。


「マギさん」


 突然ネコに


「……弟子にして下さい!」


 ……土下座で弟子入りを願われた。

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