第3話 邪魔するぜ
「おうおう、邪魔するぜぇ」
見るからにヤクザ。
そういう身なりの男たち。
一体ここに何の用なのか。
僕としては、ヤクザに面倒を掛けられる謂われなんて欠片も無かったから、なんとなく彼らを眺めながら残り少ない酒を飲み干すか、それともツマミの焼き魚を待つかの思案に耽る。
彼らは誰かを探しているようだ。
誰を探しているんだ?
別にどうでもいい話ではあるが。
……しかし。
連中のリーダーっぽい男。
僕の父親にそっくりだ。
大嫌いな僕の父親に。
……僕の父親は思い込みが激しくて嫉妬深くて。
僕を托卵の子だと思い込んで、やたら僕を殴ったよ。
大嫌いだ。暴力的な奴ってのは。
まあ、僕の母も悪いと言えば悪いんだけど。
暗くて引っ込み思案のくせに、初恋の思い出とやらをいい歳こいて捨てずに持ってて。
それをあの、嫉妬深いクソ親父に見られるという愚行を起こしたんだから。
それに、庇ってくれなかったし。
……クズが。
女なんて大嫌いだ。
おっさんも嫌いだけどな。
……決めた。
もうこの店を出よう。
焼き魚はもういいや。
料金だけ置いて……
そんなとき。
「おう、いるじゃねえか」
「借金の期日は今日が期限だ。一緒に来い!」
……例の、ウエイトレスの女の子が彼らに捕まっていた。
ウエイトレスの女の子……
酒場の女性の給仕としての一般的な、エプロンドレスを着用している丸眼鏡の女の子。
種族はヒュームだな。僕と同じで。
ヤクザのおっさんはケットシーのようで。
おっさんの顏に猫耳と猫しっぽがついている。
この世界は人間の支配する世界だが、その人間には様々な種族がいる。
最も支配的なのは、ヒューム。
100年程度の寿命で、一般的には体力と魔力は特にパッとしない。
だけど、繁殖力が旺盛で、個体差が激しい。
たまにとんでもなく強いヤツが出現する種族。
だからまあ、この世界をほぼ支配しているんだろうけど。
で、おっさんの種族、ケットシーは猫獣人と呼ばれていた時代がある種族で。
ヒュームと似たような寿命と体格。
違うのは、猫耳と猫しっぽが生えていること。
目や耳の感度が、ヒュームの数倍あることと。
瞬発力が高いこと。
家族観が、猫に近いこと。
彼ら、子供が成人したら家から追い出し、二度と会わないらしいんよな。
……羨ましいよ。
クソ親が寄生してくるかも、なんて心配しなくて良いんだから。
そんな彼らが、なんか揉めていて。
どうも、女の子が借金のカタに連れていかれるみたい。
で、その借金は、女の子の父親が、博打で負けて作った借金のようで。
その額はおよそ9000ゴルド。
……一般的な女の子の売値って、1万ゴルドくらいだったっけ?
処女だったら、もう少し値が上がるんだったっけな?
なるほど。
僕はグラスの酒を飲み干して
席を立った。
そして
「……おいアンタ」
猫耳のおっさんに話しかけた。
あん? という感じでこっちを見てくるおっさん。
僕はポケットをごそごそし。
「……これ。これを売れば捨て値でも1万ゴルドにはなる」
青水石の指輪を差し出した。
前のパーティーで、遺跡に潜ったときに宝箱から出てきた美術品。
何の魔法効果も無いけれど、4つ1セットの指輪で、だったらパーティーの結束の証にしようと皆で持っていた一品だ。
正直、見る度にあいつらを思い出すから、売ってしまうかどうか迷ってたんだよ。
「だから、その子は僕に売ってくれないかな」
ちょうどいいし。
ここで使おうか。
……だってムカつくしさ。
ここでこの子を見捨てると、あの自己保身にのみご執心なクソババアと同じになった気がするし。
それに、あのクソ親父が仕事でベストな成果を挙げたみたいな感覚にも陥るし。
邪魔するしか、ねえわ。
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