第11話 死のラブレターその9

この学校の裏庭は、普段誰も来やしないくせに、まるでこういう時の為のように、様々な花が植えられていた。


オレが今か今かと待ち侘びながら、ウロウロと歩いていると、入り口の方から、お目当ての相手から声をかけられた。


「ごめんなさい……リクドウくん……こちらから声を掛けておいて、お待たせしました。」


「いやぁ大丈夫。 まさか君がボクにラブレターをくれるなんてね。 嬉しいよ生徒会長。」


オレは心にもないことを言った。


当然最初からラブレターをくれた正体が生徒会長だってことは分かっていたし、ラブレターをもらったこと自体は、結構斬新な手で面白いがそんなに嬉しい訳でわない。


何より心の中では、いかに、手早く、巧くこの余興、あるいわ茶番を終わらすかを考えていた。


「それで、どうして、オレなの? 殆どを…いや全くと言っていいほど、君とオレとでは関わりはないけど。」


 オレが、そう言ってやると、彼女は焦った顔で、口を開いた。


「いや…!! その…所謂一目惚れで…。

生徒会長都して、皆の前で話す時に、あなたを見つけたの。」


「ふ~ん。」


Bランクといったところだ。

取ってつけたような思ったような、浅い理由付けで、正直がっかりだった。 随分準備を進めていたみたいだから、まだなにか、あるのかと期待したが…どうやらとんだ期待外れだったらしい。オレは、少しイジワル死体気持ちもあって、あえて、失望の感情を隠さずに返事をした。すると彼女は慌てて口を開く。


 「あの…ホントは人づてに貴方の事を聞いていたの…。そしたら、どうやら故郷が一緒の宇天町なの…。 あそこにいた人たちは、皆記憶障害を患ってて、私もそうだった。 でも貴方をみた時にすぐ気付いたの…。貴方はわからないだろうけど。」


「知ってるよ…。僕は記憶を失っていない。」


「え?」


彼女は、自らの誤算を実感する前に、激しく混乱した。オレは彼女のそんなツラを見ながら必死笑いを堪えて言葉責めを仕掛けた。


「誰も彼もがあの時に記憶を失ったわけじゃない。 一部の君のような奴らは、僕を含めて、あの光には体制があった。 君と僕は、八年前にあっている。一度だけね。」


彼女は明らかに、怯え、歯をガタガタと、ならし、涙ぐんだ絶望の表情を浮かべていたが、目の奥に決心のような、なにかが確かに宿ったのをかんじた。 オレは、それを確認するとあえて彼女に近づいた。 


 随分と待たせてくれるじゃないか。



「まぁ、そんなに緊張しないで、イスルチさんが、オレの事を針小棒大に語ったようだけど。 気にしないで君のデートを魅せて欲しいなー。」


オレは強張る彼女の肩に両手をおいた。


彼女は照れ隠しをするかのように俯いて見せたかと思うと、まるで時間を加速したかのように、いきなり、高速でカバンの中に入れていた。 ナイフを手にとり、オレの喉をつこうとした。


だがその凶刃が、オレの喉元に届くことはない。 なぜなら余りにもトロすぎるからだ。


オレは彼女のナイフの切れないつばの部分を持っていたボールペンで止め、彼女に笑いながら、言ってやった。


「残念賞〜♡ 景品はありませーん」


渾身の奇襲をあっさりと蹴散らされた。彼女の絶望と焦燥に染まった顔と来たら、実に滑稽なことこの上なかった。

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