第10話 死のラブレター その8
「毎日行っていることだが、また、去年のように、いつ奇妙な現象が、起こってもおかしくない。各自、下校中の防災意識をしっかりと持つように。」
担任の区木山は、マニュアル通りに帰りの会を進めている。 それが終わると、帰宅部は我先へと、ドアを開け、下駄箱に駆け出していった。
今なら、その気持がわかる。実はオレもあのラブレターのお陰で、屋上で昼寝してから、ずっとこの下校時間が、待ち遠しい。
ずっと待っていたのだ。 この時をほんとに楽しみにしていた。なんてったて、これで押さえつけられていた、俺たちの意志が解き放たれるのかもしれないから。
オレはその思いに心躍らせ、帰宅部連中に続いて、スキップしながら1階に向かった。
「リクドウ……リクドウ!」
オレは、テンションが上がっていた、ためオレは福澤に肩を叩かれるまで、気づかなかった。
福澤の方を振り向いてみると、コイツはなんとも不安気な表情でこっちを見ていた。
「ホントにその……ラブレターの相手のその……場所に行くの?」
福澤はなぜかモジモジしながら、下を向く。 そして、震えた声で言葉を続けた。
「ボクは……その……リクドウくんとずっと一緒に居たからわかる。 リクドウはボクじゃ想像も出来ないくらい賢くて、慎重だ。 それに、記憶喪失に陥ったボクに対して、君はずっとそばで助けてくれた。 君のことをたまによくわからないカンなんかで気味悪がるやつもいるけど、ボクはずっと知っているんだよ。 君が優しいことも。」
ここ数年で心底驚いた。 福澤はなぜか突然心境を吐露し始めたのだ。 しかも俯きながら、震えた声をしている。 明らかに喋りながら泣いてるんだコイツ。
「でも……今回ばかりは、君の行動に賛同できない。 ねぇ 行かないでよ。なんだか……嫌な予感がするんだよ。ボクの嫌いなカンってやつだけど……なんだか君が傷つく気がしてやまないんだよ。 それに君には、キサロさんだって……。」
「私とソウスケはそういう関係じゃないわ!!福澤ウズメくん!」
涙を拭いながら、必死に訴えてくる、福澤の言葉を急に階段から現れた亜木 キサロが否定した。
「ウズメくん。 私とソウスケは周りから、見れば恋人関係にも見えるかもしれない。
でもね…全然そんなんじゃないの。 私は寧ろ……。」
そういいながら、キサロは福澤の頬を持っていた、ハンカチで拭った。
「え?」
キサロの、言葉を聴いた福沢は、明らかに頬を赤らめて、驚きの表情でキサロの顔を見た。それに対してキサロは不敵に笑って口を開く。
「この後空いてる? ウズメくん……あなたに話したい事があるの……。」
キサロは喋っている最中に、福澤に気が付かれないほど、一瞬だけ、高速で俺の方に目を向けウインクをした。
合図だ。 俺が昼寝しに行く時、キサロにしたように、合図を送ってきたんだ。
騙して悪いなと思いつつ、オレは福澤に意識を向けられていない、今を見計らって、校舎を後にして、ラブレターの約束通り裏庭に向かった。
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