第3話 今の僕の体
さて死亡した時小学生だった僕が、どうしてこれほどに記憶を整理できているのかと言えば、すべてはこの体のおかげだ。
以前の所有者はシェルツという名の青年だった。
やや細見ながら引き締まった体。
髪の毛は銀色に輝き、瞳は琥珀色。
そして何よりも特徴的なのは、先端が尖った長い耳。
これがダークエルフと呼ばれる邪悪な種族の特徴であることが、彼の体に残されていた記憶を読み解くことで理解ができた。
ダークエルフとは1000年以上の寿命を誇る長命種であり、エルフという妖精から人間へ進化を遂げた種族の影の部分。
邪神に魂を売り渡し肌が黒く染まった邪悪な種族であることも伝わってきた。
RPGをプレイすることができていればもう少し具体的にここの部分が認識できたのかもしれないが、前述したように僕は育児放棄気味の母親に半ば放置気味に育てられていたので、玩具はほとんど買ってもらうことができない環境にいた。
それでも生前のシェルツは頭脳が明晰であり、彼の肉体に入り込んだ僕の魂は、素晴らしい速度で彼の肉体に残された情報を手に入れて処理することができた。
なぜか首が気になり指を当ててみると、シュルツの喉には鋭い刃物でぱっくりと切り裂かれた跡がしっかりと刻まれていた。
辺りに飛び散っている鮮血の量から見ても、僕の意識が目覚める直前に彼の喉が割かれ殺されたことが推測できる。
シェルツ……現在は僕の体でもあるのだが、彼の肌色は褐色というよりは漆黒に近い焦げ茶色であり、それがよろしくなかったようだ。
ダークエルフが崇める神「異界神ネフティス」の教えによると黒は神聖な色であり、生まれつき黒に近い肌色に生まれついた者は「ネフティスのいとし子」を呼ばれ、ダークエルフ社会で珍重される。
大事にされるのではなく珍重されるというのが、この世界で邪悪な種族とされるダークエルフに似つかわしい表現だ。
このいとし子という存在は、ネフティスの寵愛を受けるための生贄として最適なのだそうだ。
現代日本から来た僕としては、どう考えても肌の色が神の寵愛を示すなど迷信としか思えないのだが、ダークエルフたちは本気で信じていることがシェルツの体の記憶から分かる。
クロードは成人になるまで家族に大切に育てられ、成人を迎えたその日に生贄としてその家族に命を刈り取られた。
首に残る刃物傷は、実の姉のナイフによってつけられたものだ。
当然シェルツも自分が神の生贄として育てられていることは分かっていたようで、姉や両親が襲ってくる前に逃げ出そうといろいろ準備をしていたようなのだ。
しかし残念ながら間に合わず、その命は刈り取られてネフティスの祭壇に捧げられたようだ。
その体がなぜ復活して僕の魂が宿っているのか、その理由はまったくわからない。
とりあえず今わかることは、現在僕がいるネフティス神殿の祭壇にこのまま居続けても良い事は一つもないということだ。
この姿を姉や両親に見つかれば、今度こそ確実に殺されることは確実だ。
シェルツが生前習得していた「隠形」の魔法によって自身の姿を透明にすると、僕はダークエルフの集落から抜け出すことにした。
黒肌危機一髪! 転生先はダークエルフ どこへいっても敵だらけ のはずが生い立ちを話したら受け入れてもらえました 曲威綱重 @magaitsunashige
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