第2話 精子として転生した俺たち

「真っ暗だ。ここはどこだ?」


俺は異世界へ転送されたみたいだ。周りが暗く何も見えない。

いや、待て、そもそも俺に目がついていないように感じるぞ。

目だけじゃない。手も足もない。どういうことだ?


人間以外に転生したパターンなのか?

いや、神様は確かに「人間として第2の人生」とか言っていたぞ。

まずは感じろ。俺の全体像を・・・・・



◯〜◯〜◯〜


俺の全身を探った結果わかったことがある。

頭は丸い球体のようだ。頭の下にはエネルギー源がある。

そして、その背後には蛇みたいになっており、これで動ける。

俺にはこの形状に心当たりがある。


精子だ!


え。何?

異世界転生って精子から始めるの?

普通、赤ちゃんとか、雷に打たれた少年とかに転生するんじゃないの?

あれ? おかしいぞ。


もし、精子だとしたら、俺には様々な困難が待ち構えている。


射精。自慰で消費されるのだけは避けなければならない。排卵日であるかも重要だ。

受精。卵子とくっつけるのは基本1つだけだ。何としても競争に勝たなければ。

着床。たしか、受精しても15%ぐらいじゃなかったか。最後まで運頼みすぎる。


やばい。絶望だ。1つの精子が赤ちゃんになるまで、確率が低すぎる。

年末ジャンボ宝くじで1等を当てるのが楽勝と思えるぐらい低すぎる。

統計的な考えをするなら、俺が生まれて落ちることはない。

はぁ。


「あなたも、転生者ですか?」


俺が絶望の淵にいる時、どこからか声が聞こえた。

ていうか、「転生者ですか?」という質問。これはまずい。

ま、まさか? この精子全てが転生者なのか?


「そうみたいです。ということはあなたも転生者なのですか?」


「はい。私もついさっき転生しました。精子に転生なんて馬鹿げていますよね。」


「やっぱり、俺って精子なんだな。」


やはりというか。何というか。

改めて、現状を突きつけられるのは辛いものがある。

何せ。俺は1つの精子だからな。どうせ消費されるだけの運命だ。


「そうですよ。わかりませんでした? ここの精子たちの中には何個か、転生者が混じっているようですね。」


「そんなことまで、わかるんですか?」


「私、ここに来る前にスキルを授かったの。あなたもそうでしょ?

 私のスキルは天眼インサイト。あらゆるものの正体を見ることができるわ。

 まさか、精子でも使えるとは思わなかったけど。」


い、天眼インサイトだと・・・・・

なんて羨ましいやつなんだ。俺なんか酸塩基平衡バッファーだぞ。

ぜひ、交換してくれ!

というか、こんなチートと受精競争しないといけないのか? さらに絶望だわ。


「い、天眼インサイトなんていいですね。私なんてゴミスキルですよ。はぁ。」


「そ、そんな。ゴミスキルなんて。きっとスキルも使い方次第ですよ。」


「励ましありがとうございます。そうだと、いいんですけどね。はぁ。」


あまりにも悲観しすぎて見ず知らずの人、いや精子に愚痴を吐いてしまった。

俺の人生、いや精子生もここまでだな。



「そ、そんなに悲観しないでください。そうだ! 朗報がありますよ!

 今晩、致すみたいです。」


「!?」


致す。精子である俺に告げられた、その言葉の意味はすぐに理解した。


「それって『おせっせ』ってことですよね? 何でわかるんですか?」


「私のスキルで見たんです。今日は初夜伽だって言っていました。

ちなみに、ここは王様の中みたいです。若くてイケメンの王様です。」


天眼インサイトとはなんて便利なスキルなんだ。

こんな真っ暗な中でも俺を転生者と見定めただけでなく、外まで見えるとは。

しかも、悪用したらあんなことや、こんなことが・・・・・

いかん。いかん。紳士である俺としたことが取り乱してしまった。


そして、王様の初夜伽だと!

これはテンションが上がる情報だ。

くそゴミスキルでも生まれさえすれば王子として贅沢し放題だ。

これは何としても生まれ落ちなければならない理由ができた。

俺は受精して、第一王子としてチヤホヤされるんだ!



「ははは、聞いたぞ! お前たちも転生者だな。お前らこいつらを捕えろ!」


急に横暴な奴が現れた。

精子でもイキれるって才能だな、こいつ。


「おい、仲良くしようぜ! こんなところで争ったて無駄だぞ。」


「そうよ。大人しく一緒に射精されましょうよ。」


「黙れ! 仲良くしたって無駄だ。俺は転生を成功させ、スキルで覇権を握る。

 前世は懲役300年をくらってずっと牢屋暮らしだったからな。

 来世では地位も名誉も女も俺のものだ! ははは」


なんてわかり易いゲスだ。まぁ、最後の方の欲望は俺とあまり変わらないが。

口に出すとか、こいつ理性がないのか?

まぁ、こういう輩に付き纏われるのはやっかいだ。無視が一番だ。


「ははは、お前ら逃げるつもりだな! そうはいかん!

 俺のスキル牢獄ジェイルで拘束させてもらう。

 有象無象の精子と違って、お前らは厄介だからな。」


そして、奴はスライムみたいなものを放出して俺たちの身動きを封じた。

ネバネバして非常に不快だ。壁とくっついてすぐに出られそうにもない。


「ははは、いい様だ。そこで大人しく俺が受精されるのを見とけ! 

 そうこうしているうちに始まったみたいだな。

 お前らあばよ! また、転生できるといいな。ははは」


どうやら、射精が始まったらしい。俺らが拘束されたタイミングで最悪だ。

むかつくが、精子である俺たちに攻撃手段を持っている奴は強い。

受精競争の1位争いに食い込む実力をしているのだろう。


「ま、待て! せめてこの拘束を外して、」


(し。いいの。ここは大人しくしていて。)


じたばたする俺に対して、なぜか彼女は制止してきた。精子だけに。


(どうして、今、このビックウェーブに乗らないでいつ乗るんだ!

 受精は競争だぞ。こうしている間にも奴らは先に卵管に行ってしまう!)


(いいの。私たちは大人しくここで拘束されておきましょう。)


(どうして、そんな悠長に構えてられるんだ?)


(それがね。王様、初夜伽でテンション上がっちゃっているみたいなの。)


(それって、まさか。)


(そう。自慰行為マスターベーションよ。)

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