異世界転生をした俺は、まだ精子だった。ゴミスキルを有して受精競争を制する。愛と感動の生命の神秘。

雨井 トリカブト

第1話 金田正司とスキルガチャ

「金田正司さん。あなたは異世界転生者として選ばれました。

 人間として第二の人生を歩むことができます。」


俺は今、神様の前にいる。

ついさっきまで、しがないサラリーマンとして働いていた。

やっぱり俺は死んでしまったようだ。


俺は死ぬ間際、顧客に呼ばれて営業車を飛ばしていた。

大口の客だからというわけではない。


漏れそうだったのだ。大きい方をな。

もはや、俺はトイレのことで頭がいっぱいだった。


そして、最期は空の景色を拝んだのである。

高架を突き破り崖下にダイブ、単独事故だったようだ。

もはや、死ぬことなんてどうでもいい程にトイレに行きたかった。

そして、今に至るのである。



「神様、異世界に行くのは構いません。本で読んだのですが、何か特別な力を頂けるのでしょうか?」


異世界転生のパターンはラノベやアニメで熟知している。

チートスキルで無双し、可愛いヒロインを侍り、ハーレムを作るのがお決まりだ。


「あぁ、そうだしたね。あなたには1つスキルを授けましょう。この箱を回すのです。」


目の前に現れたのは福引でよく見かけるガラガラ回すあれだ。

箱には、何か文字が書いてある。『化学者用専用』と読める。

まあ、俺が理系の大学に行って化学工場で働いているからだろう。


「神様、この箱には『化学者用』と書いていますが、何のことですか?」


「これは化学に関した様々なスキルを揃えている筐体です。

 現在ピックアップしているSSSレアスキルは『万物創造』と『核反応』です。

 生前は化学に長けてと聞いたので、嫌でしたか?」


きたああああああ。

『万物創造』はたぶん、様々な物質を作り出せるのだろう。

応用したら、火や水、石、薬、毒など何でもし放題のチートスキルの定番だ。

『核反応』は文字通り原子爆弾のような攻撃型のスキルだろう。

制御は難しそうだが、圧倒的な破壊力が期待できる。


しかも、ピックアップと言っていたよな。

かなりの確率でどちらかのスキルを得て、俺は異世界で覇権を握れる。

ふんぞり返ったり、チヤホヤされたりしている未来が見える!


「滅相もございません。神様! これを回します。早速いいですか?」


「もちろんです。お気に召して貰えたようで何よりです。」


ガラガラ ガラガラ


俺ははやる気持ちを抑えきれず、早速、筐体を回す。

あー緊張する。これで俺の異世界での生活が決定するのだからな。

出よ! 『万物創造』

出よ! 『核反応』


ポト。ゴロゴロ。


「おめでとうございます。あなたのスキルは酸塩基平衡バッファーとなりました。」


え?

聞き間違えだよな? そんな転生スキル聞いたことないぞ?

落ち着け。素数を数えて落ち着くんだ。

1、2、3、5、7、11、いや。1は素数ではなかった。気が動転している。


待て。いやこのパターンはもしや、しょぼそうだが実はチートっていうパターンだ。

びっくりした! 驚かしやがって。

初めは下げて、実は俺すげーっていう、落差を付けるパターンだな。

そうだ。そうに、決まっている。神様も意地悪だな。


「神様、念のため、お尋ねしますが、それはどう言ったスキルでしょうか?」


「すいません。化学者と聞いていたので説明を省いてしまいました。

 酸塩基平衡バッファーは触れたあらゆる水溶液を中性にするスキルです。」


ち、中性だと! 要するにpHを7にするってことだよな?

リトマス試験紙の赤も青も変化しないってことだよな?


何? 何に役に立つの?

どこに行ったんだ? 俺のスキルでの無双人生は?

いや、待て。他にも何か効果があるはずだ。

神様もじらしてくるんだな。そうに違いない。


「神様、他にも効果があるんですよね?」


「いえ。ありません。中性にするだけです。このスキルのレア度はCです。

 では、転送を開始しますね。転生先での素敵な人生を祈っております。」


「待って! 神様! 引き直しを!」


「無理です。行ってらっしゃーい。」


神様ああああああああああああああああ。

なんて、なんて無慈悲な。

これがゲームならリセマラしていたのに。

これがゲームなら課金していたのに。

あぁ。現実とは何て無慈悲なんだ。


こうして、俺は異世界へと転送された。

酸塩基平衡バッファーを有してだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る