第15話

「ゲロ吐き公園、名前はあれだけど懐かしいわね……」

「そうだね……僕と総司くんはあんまり良い思い出ないけどね」

「え?嘘よ、だってあんなに叫びながら笑っていたじゃない」


 俺はそれは美化しすぎだぞ、と答えて昔ゲロ吐き公園の出来事を思い出す、たしかあれは保育園に入園してまもない頃だったか、初めてマンモス公園で遊んで探検しようと言い出した楓を俺と幸広は止められなかった。


 楓がずんずんと進んで行ってしまうので仕方なく幸広と着いて行きあっちこっち連れまわされ小さな公園を見つけたんだ。


 当時からダンジョンはあったがダンジョンの建物も無く見張っている人もいなかった、さすがの楓もダンジョンに入ると言う無茶まではしなかったが、ダンジョンもあり小さすぎて遊べる遊具も少なかったため他の子供達からもそんな人気の無い公園を楓は私たちの基地を作ると言い出した。


 毎週土日にこの公園に集まり子供から見たら大きな木があったので木の上に板や段ボールを持ち込み子供3人が入っても少し余裕がある不格好だが雨をしのげるくらいの秘密基地が出来上がった。

 ほとんど幸広が指示して作られていたが……まあ、そこまでは良い思い出だ。


 悲劇が起こったのは秘密基地が出来てからだ、回るだけの遊具とブランコしかなかった公園なので楓はブランコしか興味が無かったのかブランコでしか遊んでいなかった。

 さすがの楓もブランコだけでは飽きてしまったのか回るだけの遊具に興味を持ち始め、最初は自分で回してある程度回ったらそれに乗り込んで一人でキャーキャー言いながら遊んでいた。


 一人で遊んでいるだけなら問題は無かったのだが何を思ったのか楓なりの優しさなのか分からないが幸広を回る遊具に乗せ無心で遊具を回し始めた。

 幸広が泣こうがわめこうが回す手をゆるめなかった結果、幸広はゲロを吐いてしまった。

 危機感があったのか野生の直感なのかいくら叫んでも回す手をゆるめなかった手を幸広が吐くちょっと前に放しゲロを楓が浴びる事はなかった。


 そして俺はこいつには逆らわない方がいいんだと理解した一言が「見てみて総司!ゲロの噴水よ」だ。

 その日は泣いて顔とゲロでぐしゃぐしゃになった幸広と帰ったのだが次の日は俺が生贄となりひたすらに回された。

 俺はゲロのシャワーにならないぞと頑張ったのだが、子供の握力には限界がある、ゲロは耐えてはいたが握力は耐えられなかったのだ、その結果どうなるかと言うと遠心力で回る遊具から弾き飛ばされた。


 ズザァァァァァと激しい音をならして俺は肩から滑りそこでゲロを吐いた。

 その時に楓が言った言葉が「私見た事あるわ、これは無茶しやがってのポーズだわゲロ吐いてるけど」と言いながら笑っていた。


 後日談になるのだがその二日間の光景を見ていた子供が何人かいたらしく、その光景を畏怖した子供が噂を広め幼稚園、保育園、小学校、中学校まで様々な噂が広がり自然とゲロ吐き公園と呼ばれるようになった。


「とまぁ、こんな感じだったな」

「そうだったかしら?まぁ子供の頃だからね」

「当時はトラウマになりかけたんだけどね、僕」

「ごちゃごちゃうるさいわね、さっさとダンジョンに行くわよ」


 楓はそう言って収納リングから武器と盾を取り出した、剣は良く見かけるロングソードなのだが盾が変わっている形をしていた。

 正面から見たら普通の盾なのだが何故か盾の内側にベルが2つ付いていた。


「なんだその盾?なんでベル付いてるってか何で剣もってんだ?」

 

 剣と盾の事を楓に聞くと楓が言うに楓がやりたい事はタンクの立ち回りをしたいそうだ、盾はベルを鳴らして魔物からのヘイトを稼ぐために特注で作った盾らしい。


「タンクってのをやりたいのは分かったけどなんで剣もってんだ!楓は拳で戦うと思っていたのに!!小さい頃は事件があれば首をツッコミ良く分からない物があれば糞でも手を突っ込んでいた楓が剣だと!?」

「うっさい」

 

 返事をすると同時に楓は盾で俺の事を殴る、ほらやっぱりすぐに手が出るのにと言ったらまた殴られた。


「私には私なりの理想があるのよ優雅にPTをまとめ華麗にダンジョンを攻略するのが私の理想よ」

「おい幸広、楓から優雅とか華麗とか聞こえたんだが幻聴か?」

「僕は何も言わないよ」


 また盾で殴られた、幸広がほらこうなるみたいな顔で俺を見ていた、これ以上何を言っても殴られるだけだろうし、黙って置く事にする。


「あーあ、私の盾すこしへこんじゃったじゃない」

「容赦ないな」

「総司くんは少し学習しようね」

「俺は嘘つくのが苦手だ」

「処世術を学ぼうね」

「……そうだな」


 ほらさっさと行くわよと楓が言いながら楓はダンジョンの受付へと向かい入場手続きを終わらせてくれた。


「行くわよ、ダンジョンであんた達に私がやりたい事を実践で教えてあげるから」


 そう言いながら楓はダンジョンへと入場して行った。

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