幕間(2)
それは、初めは何でもないものだった。
有史以前からただそこに在った、力。
しかし微生物が生まれ、植物、動物と続き、世界に生命が満ちてくるにつれ、それは強くなっていった。
そして、ヒトという霊長類の誕生、進歩によって、それは一つの存在として、この世界に生れ落ちるに至る。
それは、星の支配者となったヒトの形をとり、世界の変遷を常に見ていた。
歴史の転換点たる場に顕れ、その様子を観測し続けていた。
しかし、時が進むにつれ、それは力の集積場────あるいは、廃棄場となっていった。
人々が信じ、時に振るうこともあった、神秘や奇跡。
そういったものが消失、あるいは解明されていくことで、人々の中から薄れていく。
しかし、それらの力は霧散せず、それの元へと戻っていったのである。
世界から神秘や奇跡が薄れ、その力はそれの中へと堆積していく。
それだけなら、まだよかった。
しかし、歴史を見ていく中で、それは徐々に摩耗していった。
歴史の転換点。
そう呼ばれるものが、得てしてどれも、争いだったからである。
最初、それにはおよそ人らしい感情というものはなかった。
しかし、感情の塊とでもいうべき人間を長きに渡って観察していれば、感情というものを知り、理解を深めることにつながる。
そして、争いばかりを見ていたそれにとって、感情というものはただどす黒く、見るに絶えないものでしかなかった。
それの摩耗は、人の負の側面ばかりを観測し続けたことによるものであったのだ。
そしてついに、それに限界が訪れる時が来た。
絶えることのない争いの観測に、辟易したのである。
それは、どうすればこの地獄から脱することができるのかを考えた。
至った結論は、自死だった。
その結論に、特に思うことはなかった。が──
「えー、ハロー! ナイストゥーミーチュー!
………アーユーオーケー?」
路地裏でただうずくまるだけのそれに、声をかける少年がいた。
その少年は、どうしてかそれを気にかけ、あちこちに連れまわした。
それは、初めて人の真っ当な営みに触れた。
それは、これまで見てこなかった世界を見て、少しだけ考えた。
自死を止めようか、と。
しかし、その迷いはほんの僅かだった。
それは、予定通り自死を敢行し、そして──
───阻止され、失敗した。
道端で片膝を付き、地面に手を当てているブロンドの少女がいる。
「やぁ。久しぶり」
そして、その少女に声をかける女性が一人。
「そう? まぁ久しぶりではあるかしら」
「ここなの? 彼が消えたのは」
「ええ」
「どうするつもり?」
「追うわ。もちろん」
「そっか」
「───面倒を、かけるわね」
その少女の言葉に、女性は目を丸くする。
「どうかした?」
「────いいや。なんでも」
そうして、女性は笑って、言う。
「こっちは任せて。いってらっしゃい」
「ええ、ありがとう。いってきます」
そして、少女は消えた。
女性は、少女が立っていた場所を見つめ、呟く。
「大丈夫さ」
そして、空を仰ぎ見た。
「────君はもう立派な、人間だもの」
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