連戦(2):the Weapon
慢心はなかった。
実際、今回の一件においては、自分の落ち度はなかったと認識している。
「全てを疑え」。
そんな主の言葉に従い、自身の考えや手札の全てを他者にさらすような真似は一切していなかった。
『蛇の目』は金で動く部隊だ。相応の金額を支払っていれば問題はない。
レナートにしても、表面上妙な動きは一切なかった。自身の部下として能力ある者、戦える者を迎えるのも、違法行為を行っている以上おかしなことではない。
己の力を見せつけ、反旗を翻しても敵いはしないという認識の植え付けもずっとやってきた。
今回の計画も、失敗はないはずだった。
だが実際はどうだ?
それなりに信頼し、重要情報の一部も共有していたレナートに裏切られたことで、全てにおいて先手を打たれ。
実力において絶対の信頼を置いていた『蛇の目』も全滅せしめられた。
ワズガルは、この街に三つある自身の隠し部屋がある店舗に、店全体を観測できるレベルにまで自身の魔力感知を引き上げられる細工をしていた。
先程も、『遠見の魔道具』で状況を見ている際、自身の部屋に近づいてきているレナートたちに気付いていた。あのまま部屋に残り続けていたら、奇襲を受け倒されていたかもしれない。
計画は、最早原型もないほどに瓦解してしまった。
──原因は、この男だ。
ワズガルは、眼前で自分を煽る青年を見ながら思う。
突如現れ、対人に長けた『暗刃のクルト』を不利な状況から打倒した男。
この男を味方に引き込めたから、レナートは離反したに違いない。
先程も、少女のことを考えて死なないように加減はしたものの、自分の攻撃を他者を守りつつ凌いだ。
クルトとの戦いで消耗しているうえ、完全に不意を付いたにもかかわらずだ。
ゆえに油断はない。が──
「負けるつもりは毛頭ない」。
クルトとの戦いでギリギリだったことから、目の前の男にはもう新たな手札はないだろう。
おそらく、仲間を先に行かせるための方便だ。
しかし、ワズガルにも積み上げてきた研鑽に裏打ちされたプライドがあった。
だからだろう。
「負けるつもりはない、だったか?
──勝てるとでも? 不愉快極まるぞ小僧」
その言葉が、妙に癪に障ったのは。
ノータイムで【
それは式隆の腹に直撃し、彼を背後に吹き飛ばした。
(腹をぶち抜くつもりだったんだが、頑丈だな。まぁ良い。死んではいなくとも致命傷だろう)
そう考え、ワズガルは逃げた日奈美たちを追おうとした。だが、吹き飛ばした先から立ち上る魔力を感じ取り、足を止める。
「──ッガハァ!! うっぐ、おぇえっ、ゲホゲホ!!」
(意識すら失っていない? …これはもう、頑丈などというレベルではない)
ワズガルは意識を切り替える。この男は危険だ。生かしておけば、必ず主に牙を剥く。
ここで、確実に殺す。
式隆は、せき込みながらも震える足でどうにか立ち上がる。
吹き飛ばされた直後、呼吸ができなかったため喉に手を突っ込んだところ、吐瀉物と血が入り混じったものが道にぶちまけられた。
肩で息をしながら必死に考える。
(くっそ…! 分かっちゃいたがまるで勝てる気がしない! しかもなんか殺気増してないか!?)
自分には何が出来るか。
それを改めて考え、やれることを全力でやるしかないという結論に至る。
(攻撃が見えなかった…! なら感知に比重を置いて! 全身に魔力をまわせ!)
両頬を叩いてガタガタの身体に渇を入れ、構える。
そのタイミングで、ワズガルが動いた。
「ここは目立つな? ──小僧」
そう言い放つと、先ほどと同様の魔力弾を放つ。
ここは出口のすぐ傍だ。一発目で体勢を崩させ、二発目で街の外へと押し出すつもりだった。だが──
パァン!!!
(──! 対応した!)
式隆が左腕を振るい、魔力弾をはじいたのである。感知に意識と魔力を割いたおかげである。
ワズガルが放った魔力弾は、一番最初の一撃から最高速である。感知で魔力弾は可視化できるが、一発受けただけで適応とは、末恐ろしい。
だが、体勢は崩した。満足に踏ん張れない状態の式隆に、当初の予定通りに二発目を撃ち込んで外まで弾き飛ばした。
再び吹き飛ばされた式隆は、数度地面をバウンドして体勢を立て直し、痛みを堪えながら、こちらに向かって歩いてくるワズガルを見据える。
(門が閉まる前で良かった。壊したくないし、ぶつかったらダメージ増してただろうし)
そんなことを考えつつ、勝機を探る。
(……隙を見つけて全力の一撃を叩き込めばいけるか?)
現状、ワズガルは遠距離から魔法攻撃を飛ばしてきている。魔力感知で見ても、特に自身を守っているようには見えない。
しかし、防御手段は間違いなく持ち合わせているはずだ。相手からの攻撃を防ぐタイミングで、障壁のようなものを展開してくるのかもしれない。
ゆえに、それを打ち払ってそのまま倒せるような攻撃が望ましい。が、果たして、自分の全力でそこまでやれるものなのか。それが分からない。
そしてそれ以前に──
(もう既に後手後手だし──! ってかコイツの魔法レパートリー多彩すぎるだろ!?)
先程から氷の槍やら炎の波やら風の刃やら電撃やらが、息つく間もなく飛んでくる。
式隆は知る由もないことだが、ワズガルはその多彩さで成り上がった魔法士である。
幸い町の外に出たことでフィールドが広がり、木を遮蔽物にしたりしてどうにか凌げている。しかし、長くは持ちそうにない。
(どうするどうする!? 肩も腹も痛いし頭は回らないし、もう破れかぶれの特効しか思いつかねぇ!)
ワズガルを視界に捉えつつ逃げまわる。と、そこで。
踏み出した足元から、ビシリと音が響く。
視線を下げればヒビがあり、次の瞬間、それがバキバキという音とともに急速に大きくなっていく。
危険を察知した式隆は、咄嗟に跳び、同時に走り抜けようとした場所が爆発する。
直後、跳ばされたことに気付いた。
しかし、気付くには遅すぎた。
ワズガルが作り出したであろう、圧倒的な熱を持つ巨大な火の玉が、既に目の前にあった。
(あ、ヤバ────)
式隆が火球に飲み込まれたのを見届け、ワズガルは街に目を向ける。
正直、ここまで食い下がられるとは思っていなかった。
満身創痍と言っても過言ではない状態で、放つ魔法の悉くを躱し、弾き、いなす。
その上で、鋭い目をして常にこちらの隙を伺う。
垣間見える執念のようなものに、不覚にも恐怖を覚えてしまった。
(外傷はないが、魔力を4割ほど消費してしまった。主目的はヤツではないんだ。急いで逃げた連中を追わなければ────)
そこまで考えた時、空中の火球が突如として真っ二つになり、はじけた。そして──
舞い散る火花の中から姿を現した式隆が、地面に降り立った。
「────は?」
その手には、一振りの剣が握られていた。
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