レナート・ストロス(2):Encounter
その少女は異質だった。
ここノルトはそれなりに規模の大きい街だ。しかし、それでも街はずれには浮浪者などがいて、スラムという程ではないにしろ治安は良くない。
そんな場所に、身なりが清潔であまり見ないような格好をした美しい少女がいたのだ。持っていた荷物も、中身はよく分からない物ばかりだった。
見つけたのは僕ではないが、最初に発見した者たちの言葉に嘘はない。彼らは日々の生活にも困るような者達なので、嘘など付く余裕はないからだ。
奴隷となった者は、実質的には私の上司の立場に収まっているワズガルの前に通されるのが決まりとなっている。どうやら、彼の雇い主が求める人材を探すためらしい。
過去一度も、求める人材とやらが見つかった様子はなかった。
しかし、その少女がを見た時のワズガルは明らかにいつもと様子が違った。隠そうとしているようだったが、目を血走らせ興奮しているのは明らかだったからだ。
彼女はこちらからの接触にリアクションを返さなかったが、唯一話す言葉があった。
「二ホン」
言葉の意味はまるで分からなかったが、とりあえず少女のことは二ホンと呼ぶことにした。
ワズガルは、彼女が探していた人材だと気付かれたくないのか、僕にいつも通り管理しろと言い付けた。
僕はいつも、奴隷を一定周期で売っていた。彼女が売られる周期までは問題ないと考えていたのだろう。
僕は周期を早めて彼女をオークションに出品した。
なぜそうしたのかは、自分でもうまく説明できない。
多分、ろくな目に合わないであろう彼女への同情と、今更湧き出たちっぽけな反骨心だと思う。
彼女を荷物もろともに買ったヤツもろくでもないボンボンのようだったが、追い出した僕を利用してまでやろうとしている何かに巻き込まれるよりは、まだマシのはずだろう。
出品はすぐにバレた。
しかし、変わらぬ対応を命じたのは向こうなので、しらばっくれれば追及はされない。
代わりに、すぐに買い戻してくるように命令された。
どうしようかと考えつつ部屋に向かうと、彼女と落札者がいなくなっていた。
念のため、隠密に長けた部下に部屋の外で様子を見張らせていたのだが、見失ったらしい。
二人は早足で外に出て、
ワズガルは僕に、すぐに見つけるよう命令した。
僕の腕利きの部下を撒けるほどならば、適当に探しても見つからないだろう。
そんな僕の考えは、捜索一日目に、見知らぬ男とのんきに大通りを歩いている少女を見つけて粉々に打ち砕かれた。
迂闊すぎる。
会話を聞くに、見知らぬ男と落札者のデブは同一人物らしい。姿を変えられる魔道具はとても貴重なので、部下が気付かなかったのも無理はない。
僕は彼らの宿泊する宿を突き止め、部屋に忍び込んで帰りを待った。そして──
「誰だアンタ」
──ミカミシキタカという、妙な男に出会った。
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