第4話 嫌よ嫌よも……?

「ふんふふん……ふんふーん………ん?」


 とある朝。鼻唄を歌いながら登校していると、うちの制服を着た見覚えのある男子がひとりで歩いていた。


 これはチャンスだと考えた私は急いでその男子に追い付き、おもいっきり肩を叩いて挨拶した。


「おはよ!!桜川くん!!」


「った!?……ってなんだあんたか…」


 ちょっと強くしすぎたのか桜川くんの顔は少し歪んでいた。まだ嫌われるわけにもいかないので、少し恥ずかしいがドジっ子ぶって乗りきることにした。


「ごめん大丈夫!?朝から桜川くんに会えるなんて、嬉しくてつい………ごめんなさい」


「…いや別に……謝るほどじゃ………」


 そうはいいつつもそっぽを向いてしまう桜川くん。そりゃほぼ初対面の人に肩叩かれたら嫌だよね。本当に悪いことをしてしまった。


 だがしかし、ここで引いては良くない。ちょっと傷つくがこれも最後に負けるためのフラグ作り………こういう雑な所をアピールしてかないと。




「あ、そうだ!お詫びに私だけのとっておきの近道を教えてあげるよ!」


「……近道?」


「そ!着いてきて!」


 良くない流れを誤魔化すように次の作戦にうつる。時間的にも丁度いいはずだ。



 というわけで脇道に入り、全然近道じゃないむしろ遠回りの道を歩く。その道を少し進むと左手の方に小さめの公園がある。そしてその公園では………




「……にゃんにゃん」



 そう!天城さんが野良猫と戯れているのです!


 普段はお堅い天城さんですが!どうやら動物が大好きなようだ!しかも鳴き声真似しちゃうタイプ!あざとい!!!かわいい!!!



 しかし!私はこれを華麗にスルー!私はあくまでも近道を教えているだけ!天城さんに気づかない!

 だけども!道を覚えようと必死な桜川くんは周りを観察しているはずなので公園の中で遊んでいる天城さんにも気づくはず!


 完璧な作戦………!


 というわけでなるべーーーくゆっくり公園の前を歩いていたのだが……



「…………」


「………………」


「……………………」






「いや気づいてよ!!!」


「はぁ!?急になんだよ!!?」


「…………なッ!?」


 気づく気配のない桜川くんに大声でツッコミをいれてしまい、そのせいで天城さんが逆に私達の存在に気づいてしまった。


「なんで貴方がここに!!」


 桜川くんを見つけた天城さんは何故か怒っており、その声のせいで猫は逃げてしまった。


「……お前に関係あるかよ。てかお前こそ公園でなにしてんだよ」


「それはッ………貴方には関係ないですよね!!」


 一方冷静な桜川くん。流石の天城さんも分が悪いのは分かっているようで、なんとか反論しようと思考を巡らせていた。


 ふたりの険悪な空気をなんとかするため、気になっていた話をここで聞いてしまうことにした。このふたりには恋仲になってもらわないと困るのでね。



「……そういえばさ、玲奈ちゃんはなんで転校してきたばっかりの桜川くんと喧嘩してるの?」


「れい…な…!?」


「え?あ、名前呼び嫌だった?」


 先日、天城さんの方から名前で呼んでくれたので合わせた方がいいのかなと思って呼んでみたのだが、どうやら嫌だったらしい。


「嫌では……ありませんが………ちょっと驚いただけです…」


「そう?ならいいんだけど……」


 とはいいつつも私と目を合わせようとしてくれない。うーーん難しい。ゆくゆくは親友にならなきゃいけないのだ。距離感を考えて接することにしよう。……しばらくは名字だね。



「で、なんで俺がコイツと喧嘩してるかって話だったよな」


 軌道修正するように桜川くんが代わりに話を進めてくれた。ありがとう!助かる!


「うん。そうそう。何かあったとか?」


「……大した話じゃないけどさ。引っ越してきたばっかの時にな、適当にこの辺を彷徨いてたらコイツが男に絡まれててよ」

「それで……まぁ明らかに困ってたから助けてやったんだよ」


「ほうほう!」



 なんとも素晴らしい馴れ初めじゃないか!でもどうしてこの流れで仲が悪くなれるんだ?


 首を傾げていると、顔を真っ赤にした天城さんが会話に参戦してきた。


「騙されないでください!確かに私がゲス共に絡まれていたのは事実でしたが………あろうことかこの人は私の手を急に握りだしたんですよ!?」


「それは……仕方ねぇだろ!恋人のフリするしか思いつかなかったんだから!!」


「仕方なくないです!!突然現れて『すんません。俺の女なんすよ』は普通に怖いです!!というかキモい!!!最低!!!」


「そこまで言うか!!?助けてもらっておいてお前!!」


「ならもっと男らしい助け方がありましたよね!!喧嘩するとか!それこそ通報するとか!!」


「通報してたら間に合わないかもしれないと思ったんだよ!それに喧嘩とか3人相手に俺が勝てるわけねぇだろ!?」


「………見え見えなんですよ!!あわよくばみたいな考えが!!!」






 目の前で始まってしまった口喧嘩。私はこれを止めるわけでもなくただただ見守っていた。




 だって最高じゃん!え、ナンパから助けるために恋人のフリ!?いいねぇ!カッコいいじゃん桜川くん!!天城さんも恥ずかしかっただけで内心では絶対に感謝してるはず!!


 今はまだ恐怖だと思い込んでいる感情がとある時をきっかけに恋であると発覚するんだ!!最高!!めっちゃ盛り上がってきた!!こんなの天城さんしか勝たん!!!この展開で私の勝てる要素なんてゼロ!!!




「……あの、聞いてます?」


「はい!!?聞いてますとも!!?」


 ひとりで妄想の世界を渡り歩いていると、いつの間にか喧嘩を止めていた天城さんから心配そうに見られていた。


「………ならどっちが悪いと思いますか?」


「どっちが……?」


 話の流れ的に言いたいことは分かる。だけど、どっちが悪いとか無いような気もする。



 天城さんの言い分もごもっともだ。そりゃ私だって急に知らない人から手を握られたらビックリする。


 でも桜川くんだって善意で助けてくれた訳だし…それを悪く言うのも良くない。




 というわけで私の出した結論は…………!



「仲良いんだねふたりとも!!!」



「やっぱり話聞いてなかったですよね!?」

「ここまでの話聞いてたか!!?」



 見事に息の揃ったツッコミを引き出すことに成功し、その後は3人仲良く(無理矢理)学校へと登校することになったのだった。





 その日の放課後。途中まで家の方向が同じのマキちゃんと下校し、別れた後で今朝の公園に寄ってみることにした。


 目的は1つ。



「あ、いたいた…………ごめんね朝は~」


 公園にあるドームの用な遊具に住み着いてしまっている野良猫に近寄り、謝罪をする。


 優しい天城さんと戯れていた所を邪魔してしまった。天城さんにとってもこの子がここから居なくなってしまうのは良くない事だろう。いつか桜川くんが気づいてくれるかもしれないし。



「……よく見るとめっちゃかわいいねキミ」


 いつもは天城さんと遊んでいる所を遠目で見ることしか出来なかったが、いざ対面してみると目茶苦茶かわいい。これは遊びたくもなる。


「…………にゃ…にゃん…にゃん?」


「………ンニャッ!」


「ちょ!?逃げないでよぉ!!」


 思いきって天城さんの真似をしてみたのに野良猫からは逃げられてしまった。私には天城さんのように猫をあやすのはむいていないのだろうと感じ、落ち込んだ気分のまま家に帰るのだった。

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