【短編/1話完結】危機一髪からのどんでん返し

茉莉多 真遊人

本編

 俺は思う。


 テスト。なんでそんなものが今もこの世界に存在するのか。


 今の時代、インターネットやらAIやらで情報に簡単にアクセスできるのだから、学校で覚えることは年号や公式じゃなくて、上手く検索する方法だと思う。


 さらに言えば、漢字。もうこれなんか書き順や点が付いているかいないかなどを覚える意味なぞほとんどない。パソコンが自動的に変換してくれるのだから、その恩恵に与ればいいわけだ。


 なんだったら、うちの親なんか小学生で習う漢字も危うい時があるし、そういう時はスマホを取り出して調べているのだから、漢字なんて読み方となんとなく意味さえ分かればいいんじゃないかと思う。


「さあ、今から漢字テストを返すぞー」


 ここまで長々と内心で毒づいて愚痴っていた理由がこれだ。


 漢字テスト。


 五十歩、百歩、千歩、いや、一万歩譲って、中間や期末ならともかく、小テストと呼ばれる類のものにどれだけの価値があるのだろうか。いや、価値などない。


 価値などないが、漢字テストの点数が悪いと、具体的に言えば39点以下という赤点を3回取ると、中間や期末で赤点にならないようにとモレなく2時間の放課後補習タイムがプレゼントされるのだ。


「次、〇〇。悪くない、良くもないけどな」


 番号順、もっと言えば、あいうえお順で返される。席替えをしたのに、先生というのは生真面目なのか、番号順にして整理するのだ。まあ、テストの点数を成績管理表に転記する際のミスを防ぐためなんだろうけど。


「次、△△。おめでとう。補習行きだ」


 何がおめでとうなんだ。めでたさの欠片もないじゃないか。だいたい、先生だって、補習に付き合う先生の身にもなってくれ、と言っていたじゃないか。


 なんで、そんな嬉しそうなんだ。生徒の苦々しい顔を見るのが好きなSなのか、補習の付き合いという苦行を嬉しがるMなのか、はっきりしてくれ。


 いや、聞きたくないな。


「次、田中」


 次々と呼ばれて、いよいよ、俺だ。


 至ってポピュラーな名前である。クラスには俺しか田中はいないが、学年なら3人はいたはずだ。もしかしたら、俺の知らない田中がいるかもしれないから、もっといるかもしれない。それくらいにポピュラーである。


「良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」


 ドラマや映画みたいな言い回しをしていないで、さっさと教えてくれ。まともに返せんのか。


 どうせ悪い知らせは補習だ。もう俺は2回も漢字テストで赤点を取っていた。それなら、良い方から聞きたい。


「良い方で」


「赤点回避だ。おめでとう。危機一髪という漢字を書けていたから、まさに危機一髪って感じだな」


「えっ」


 まさかの赤点回避。つまり、補習回避じゃないか。俺が嬉々として心の中でガッツポーズを取った後に、ふと脳内に過ぎる。


「あれ? じゃあ、悪い知らせってのは?」


「田中、開始直後に消しゴム落としただろ?」


 早く結論を言ってくれないか。回りくどい。俺が消しゴムを落としたのが何だって言うんだ。


 ま、まさか。


「先生! 俺、カンニングなんてしてないですよ!?」


「分かっている。カンニングするならもう少しまともな点だろうからな」


 やかましいわ。


「えっと、じゃあ、なんで」


「ほら、自分で書いた名前をよく見ろ」


 返してもらった答案用紙を眺めると、まず目に入ってきたのが40点の文字だった。


 まさに危機一髪。


 そして、先生の言っていたことを理解する。


「あ」


 そう、クラスや番号、名前を書いている途中で消しゴムを落として焦ってしまい、書ききったと思ってしまったのだろう。


 名前の記入欄には、田、しか書いていなかったのだ。苗字さえも途中である。無記名は0点という謎の風習により、この40点は0点に急転直下で堕ちるのだ。


「ということで、さすがに番号と田は書いてあるから、0点だと可哀想だから点数は取った点数で許してやるが、名前もまともに書けない田中も補習行きだ。おめでとう」


 謎の容赦と謎の罰ゲームを同時に食らい、俺はなんとも言えない顔で自分の席へと戻るのだった。

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【短編/1話完結】危機一髪からのどんでん返し 茉莉多 真遊人 @Mayuto_Matsurita

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