第20話 聖女に性格は関係ないのだと再確認

 

「ああ、ステラ!あなたがここに来るまでそんなに辛い思いをしていたなんて!」


 話し終えた私を、アンジェリカ様がそう嘆きながら抱きしめてくれる。


 殿下もシルヴァン様もとても難しい顔をしていた。


 だけど、うーん。

 確かに楽しい生活ではなかったし、元家族たちには腹が立つことも多かったけれど、実際のところそこまで辛いというわけでもなかったんだよね。

 こっそり家を抜け出しては冒険者として魔物を狩ってお金を稼いだり、お腹が空いて家を抜け出しては魔物や獣を狩って食料にしたり。スカーレットや義両親、彼らを真似した使用人たちからの嫌味や嫌がらせにムカムカしていたから、たまに家を抜け出しては魔物を狩ってストレス発散をしたり。


 あ、あれ?こうして振り返ってみると、私の楽しみって魔物を狩るばっかりだったのでは……?


 いやいや、冒険者たちには可愛がってもらったし、魔物狩りの途中で仲良くなった知能の高くて優しい魔物と遊んだりするのも楽しかった!狩るばかりが楽しみだったわけじゃない!


 それにあの時間があったおかげで魔法が使えるようにもなったわけだしね。


 しかし、私を思ってしくしくと泣き始めたアンジェリカ様には到底そんなことは言えない。言ってしまえばなんだかもっと泣かせてしまいそうな気がする。


「聖女とは、慈愛に満ち、心根の美しい者だとばかりイメージしていたのだがな……」


 王太子殿下が苦々しく呟く。それにシルヴァン様もうんうんと頷いていた。

 わああ、分かる!私も同じように思っていたから、スカーレットが聖女だって分かってがっかりしたんだよね。


 しかし、現実はスカーレットが聖女で間違いないのである。


「何かの間違いなのでは?むしろ浄化の力を持つステラの方がよほど聖女らしい気がしますが」


「いやいやいや!それはありません!」


 シルヴァン様が恐ろしいことを言い始めたので、慌てて否定する。


「だって、神官様がちゃんと鑑定していました。水晶がとんでもなく眩く光を放つのを私もこっそりのぞいていましたし、スカーレットが聖女であることは間違いないと思います」


 おまけに、私は鑑定についての説明もこっそり聞いていたので分かる。あの光があれほど眩しかったということは、それだけスカーレットが強い力を持つ聖女だっていうことなんだよね。


「そうか……」


 王太子殿下の声色がとっても残念そうで少しだけおもしろい気持ちになってしまった。

 わかるわかる。がっかりなんですよね。できれば鑑定の結果に何か間違いがあって、もっとそれっぽい人が聖女だったらよかったのに、なんて思ってしまっているに違いない。


 ふと、シルヴァン様が顔を上げる。


「しかし、念のため彼女の鑑定に立ち会った神官に改めて話を聞いた方がよいのではないですか?」


「そうだな。しかし、ここだけの話、その神官は城に戻った途端に倒れ、今も療養中なのだ」


「ええっ!そうなんですか?」


 びっくりして思わず口を挟んでしまった。


「鑑定は水晶を媒体として行われるが、神官の持つ聖魔力を使って水晶の力を引き出すことが必要なのだ。聖女スカーレットの聖魔力が強すぎて、神官に負担がかかったんだろう」


「なんと……それこそスカーレットの聖女の力で回復してあげることはできないんですか?」


「無理だな。聖魔力にあてられて不調に陥っているわけだから、聖魔力を使用する回復は逆効果になる。自然と回復するしかない。おまけに聖女スカーレットはまだ聖女の力をうまく使えないんだ」


 なるほど。確かに、聖女と認められたとはいえ突然その力が自由自在に使えるようになるわけはないよね。

 だけど、そんな事情なら余計にスカーレットが聖女であることは疑いようがない気がする。


 殿下もシルヴァン様も同じように考えているようで、なんとも言えない空気が漂っていた。


「とにかく、マーファス伯爵夫妻は今王都に屋敷を用意され暮らしているが、王城へはよほどのことがない限り来ることはないのでその点は安心してほしい。聖女と全く会わないということは難しいかもしれないが、なるべく鉢合わせないように配慮はしよう」


「ありがとうございます……!」


「いや、こちらも君を頼りにしようとしている立場だからな。これくらいは当然のことだ」


 スカーレットにはかなりの自由と権力が与えられているはずなので、どこまで会わずに済むかは分からないけど……。会ってもバレないようにだけ気をつけよう。


「それからステラ嬢、君のメイドとしての立場を引き上げる。そのためにやはり私付きのメイドになってほしい。魅了の魔力の影響を受けている者の見当も今はつかないし、誰が魅了の魔力を振りまいているのかも分からないため、出来る限り高位の者とも接する機会がある立場が望ましいのだ。残念ながら出所がわからなければ広範囲に対策することもなかなか難しいため、悩ましいところだが」


「え、ですが……」


「もちろん、アンジェリカが登城する際には今まで通りアンジェリカの側に付いてくれ。私もその方が安心するし、私の大事なアンジェリカが喜ぶからな」


「まあ、殿下!」


 話しの邪魔をしないようにと静かに私を抱きしめていたアンジェリカ様が感激したように頬を上気させた。

 殿下が頑張ってきちんとお気持ちを言葉にしていて感心してしまう。それにアンジェリカ様が喜んでいて私も嬉しい!


「分かりました!そういうことでしたら、謹んでお受けいたします」


 それに……これって間違いなく大出世だよね!?今までは思うところがあって拒否していたけれど、殿下のメイドなんてメイドの中でもかなり高位なお仕事だもの。魔術師団への道がまた一歩近づいたわ!


 しかし、ふと思った。

 メイドとしてどこまで出世すれば、魔術師団に配属してもらえるんだろう……?

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