第19話 あれがホコリじゃなかっただなんて本当ですか!?
私としては本当に信じられないのだけれど、あの武器庫はなんだか嫌な雰囲気で暗く澱んでいる空気ではあったものの、ホコリなどはなかったらしい。シルヴァン様や魔術師団の位の高い人で時々中の状態を確認していたので間違いないのだとか。
えっと、あのホコリが他の人には見えていなかった?本当は物理的には存在していないホコリだった?
私には掴めたのに?おまけに集めてきちんと決められた場所で焼却までしたんだけれど。
うーん。やっぱり全く信じられない。
けれど、だから箒や手袋越しでは取れなかったのだと言われると、少しだけ「なるほど」と思ってしまう。
「シルヴァンの肩についていたというホコリも同じ物だろう」
「あのとんでもなく大きなホコリが実はホコリじゃなかっただなんて……」
「だからだよ。もし本当にそんなにも目立つホコリをシルヴァンが肩につけていたのなら、君に見つかる前に城内で誰かに声をかけられていただろうね。シルヴァンに近づきたいと思っている者は多い。そんな絶好の口実を誰もが見逃すなどありえないだろう」
「殿下!余計なことを言わないでください」
シルヴァン様の抗議の声に殿下は肩を竦める。
だけど、なるほど。そう言われるととっても説得力がある気がする。
あと、そんなに誰もが声をかけるチャンスをうかがっているということに、改めてシルヴァン様はすごい人なんだなあと実感してしまった。
それなのに私みたいな下っ端がこうして話せているなんて……やっぱりすごくラッキーだよね!?
「私の顔がその……薄汚れていたというのも……同じようなことだろう。私はきちんと風呂には入っているのでな」
「ひえっ!す、すみましぇん……!」
歯切れ悪く、言いたくなさそうに告げる王太子殿下に慌てて謝ったけれど、心臓に悪すぎて噛んでしまったわ!
殿下の横でアンジェリカ様が面白そうに頷いているので、どうやら殿下のお顔の汚れも私にしか見えていなかったらしい。
スカーレットやアンジェリカ様のことで殿下を直視しないようにしていたから今日まで気が付かなかったんだけど、それでよかったかも……うっかり耐えられずに「汚れておりますよ」なんて言ってしまっていたらと思うとゾッとしちゃうわ!
震えあがる私の側にシルヴァン様が近寄って来て、そっと両手を握られる。
う、うわあお。シルヴァン様ってこうして何度近くでも見ても見惚れるほど美形だわ……!
「ステラ、君に頼みがあるんだ。もしも城内で同じように汚れて見えたり、ホコリをつけている者がいれば教えてほしい。そして、おそらくそれは魅了の魔力だろうから、それを浄化してほしいんだ」
「えっと……お手伝いするのはもちろん問題ありませんが、本当に私に浄化をするような力などあるのかなって……」
だって、ホコリを摘まみとって、殿下を叩いただけだもの。浄化も偶然かもしれない。
おまけに本当のホコリと魅了の魔力の見分けが全くついていないのだから、不安しかないのだけど。
その魅了の魔力も他の人には見えていないなら私の自己申告でしかないわけだし、これでやっぱり「勘違いだった」とか、「浄化の力なんかやっぱりなかった」ということになっても責任を取れないし……。
腰が引ける私に、けれど殿下もシルヴァン様も私に責任を問うようなことはしないから、なんとなく気にして周りを見ているだけでいいと言う。
「分かりました……」
断れる?断れるわけないよね?ただでさえ不敬を働きまくってそれを見逃してもらっている状況で、私には負い目しかないんだし!
だけど、責任を問われないならまあ大丈夫か。
「ありがとう、ステラ嬢。そのうち、魅了の魔力の影響を受けている可能性が高い者とさりげなく引き合わせる機会も作りたいと思っているから、その時もどうか頼むよ」
にっこり笑う王太子殿下が恐ろしい。
けれど、そっと肩を引き寄せられて嬉しそうなアンジェリカ様を見ていると、できることがあるならやってみようかなという気分になってくる。
ただ、これだけは言っておきたい。
「出来れば、聖女様にはバレないようにお願いします……」
「それはもちろんだ。こちらとしてもその方が都合がいいからね」
ホッとしたところで、シルヴァン様が鋭い指摘を繰り出した!
「そういえば、ステラ嬢は聖女と知り合いなのかい?僕たちのように彼女の魅了の魔力について気づいている者はまだしも、誰もが聖女を好意的に見ているようなのに、君は最初から警戒しているよね」
ぎくっ!
さらに、王太子殿下も続く。
「確かに、アンジェリカのことで頭がいっぱいになっていたせいで忘れていたが、君は私が聖女と恋仲だと誤解していた時も『スカーレットなんかに』と言っていたね。名前で呼び、嫌っているようだが、一体どういう関係なんだい?」
う、うう……!
どうにか逃げたくて思わず俯くと、アンジェリカ様が心配そうに声をかけてくださった。
「ステラ?わたくしにも話せないかしら?」
顔を上げると、心の底から私を心配しているという瞳と目が合った。
……アンジェリカ様にこんな風に気にかけてもらっておいて、秘密のままにしておくなんてできないよ……。
まあ、ここまできたらもう隠す必要もあまりないか。
私とスカーレットのことを話せば、ひょっとして彼女とうっかりでも接触しないように配慮してもらえるかもしれないし!
うんうん、現状は殿下にお願い事をされている状況なわけだから、今なら言えるかも!
そうして、私はスカーレットとマーファス家、そして私のことを話しはじめた。
……だけど、あれ?なんだかシルヴァン様もアンジェリカ様も、王太子殿下もどんどん顔が険しくなっているような……。
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