第18話 魅了の魔力についてのお話
戻って来て部屋に入った瞬間、アンジェリカ様は私を抱きしめてくれた。
「ステラ!あなたがわたくしのために殿下にお説教をしてくれたって聞いたわ!」
ひいい!
「お、お説教だなんて恐れ多いです!不敬を働きまくりあまつさえ手まであげてしまいましたすみません!」
「うふふ!最高よ!」
殿下と仲直りを果たしたアンジェリカ様にはやり過ぎだと叱られちゃうかなと思っていたけれど、笑って称えられてしまった。
「だって、私も鬱憤が溜まっていたもの。代わりに殴ってくれてありがとう」と満面の笑みをうかべるアンジェリカ様のなんと可愛らしいことか!
殿下はその向こうでちょっと気まずそうに苦笑してらしたけど……。
落ち着いたところで、魅了の魔力について話しをすることになった。
「恐らく、魔力の少ない者の方が強く魅了されるのだろう。私は王族として精神干渉魔法への耐性があったためにそこまで強くかからなかったため、聖女を好意的には感じていたが、スカーレットへの想いや他の者への態度は変わらなかったのだろうな。そして、魔力の強いシルヴァンは誰よりも魅了の影響が軽かったのだと考えられる」
「ええっ!?シルヴァン様も魅了の魔力の影響を受けていたんですか!?」
驚いて目を丸くすると、その私の様子に殿下も驚いていた。
「なんだ、気付いていなかったのか?」
気づくも何も……。
シルヴァン様と目が合うと、にこりと微笑まれてしまう。
うーん、スカーレットには基本的に会わないように気を付けていたしなあ。ひょっとして、私の知らないところでは、シルヴァン様も殿下みたいにスカーレットとすごく親密にしていたの?
う、うわっ。想像してしまって、なぜかお腹の底がモヤモヤとした。私が憧れる魔術師団、その副団長であるシルヴァン様と、私の嫌いなスカーレットが関わるのが面白くないからこんないやな感じが湧いてくるのだろうか?
「ステラ、そんな顔をしないで。君が僕にまとまりつく魅了の魔力を払ってくれたんだよ」
「へ?」
あれ、またもや話がよくわからなくなってきたぞ……。
「ほら、最初にステラと僕があった時に、ステラが僕の肩に触れたでしょう?おそらくあの時に僕についていた魅了の魔力は払われたんだと思う」
「え?いや、あれはただ、シルヴァン様の肩になんだかとっても大きなホコリがついていたので、それを摘まんで取っただけで……」
戸惑っていると、話を聞いていた王太子殿下が「ホコリ……」と呟いている。
シルヴァン様はなぜか驚いていた。
「そっか、君の目にはそういう風に見えていたんだね」
そういう風にも何も、あれはまごうことなきホコリだった。あんなホコリついているなんて恥ずかしいだろうなあっと思ったんだよね。
「じゃあ、武器庫の中や、その武器についてはどうだった?」
シルヴァン様が何を聞きたいのかがよく分からないけれど、とにかく思ったままを答えていく。
「武器庫はとんでもなく空気が悪くてどんよりしていました。びっくりするほどホコリまみれだったので最初は箒で掃いて集めようとしたんですけど取れなくて。すぐに手でつまんで取るようにしました。なぜか手袋越しだと上手く掴めなくって大変だったんですよ!」
真剣に聞いてくれているので、調子にのって「大変だったけど頑張りましたよ」アピールも織り交ぜておく。武器庫の掃除だけで何日もかかっちゃったけど、そこで要領を掴んだおかげで武器の手入れも楽しく効率よくできたんだよね。
完璧な説明だわ!と思ったのに、なぜかシルヴァン様と殿下は目を見合わせて頷きあっている。
よく分からないけど、さっきからよく分からないことばかりなのでもう気にしないことにした。
少し考え込むようにしていたシルヴァン様はもう一度私にたずねる。
「殿下に手を上げる前にも、同じようなホコリは見えた?」
うわああ、センシティブな質問ですね!
許されている雰囲気ではあるけど、そのことに触れられるのはちょっと気まずい。
どうしようかな……と思ったけど、心当たりがあったので「ああ!」と反応してしまう。
「そういえば、手を上げる前に久しぶりに殿下をお顔をまともに見たんですけど、なんだかとっても薄汚れていてお風呂に入っていないのかな?と思いました。煤をつけたような感じで……それなのに、手を上げた後はなんだか綺麗になったように見えた気がします」
「ぶふっ」
「薄汚れて……風呂に入っていないと思われたのか……」
シルヴァン様は吹き出して肩を震わせ、殿下は茫然と何かを呟いている。
私としては言いながら、これは私の気持ちの問題かもしれないなあと思っていた。憎き殿下が汚く見えて、我に返って不敬に問われる恐ろしさで、別に汚れてなんかいないという真実が見えたのかなって。
しかし、笑いを落ち着けたシルヴァン様が予想外のことを言い出した。
「これではっきりしましたね、殿下。……ステラ、君の目にはきっと魅了の魔力や呪いなどがホコリや汚れとして可視化されているんだろう」
「ええっ?」
「そして、恐らく君にはそれを浄化する力がある」
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