第11話 災い転じて福となる?

 

 びっくりしたのだけど、その日から色んな人に声をかけられるようになった。


「ステラちゃん、いつもありがとうな!ステラちゃんに洗濯してもらうと仕事着が特別いいにおいするんだよ!」

「それは良かったです!」


「ステラちゃん、ひょっとして俺ら衛兵の休憩所の掃除してくれた?空気悪かったのがすっかり改善して本当にありがたい」

「わ!よく私だって分かりましたね!?お役に立てたなら嬉しいです!」


「ステラちゃん!これ、間引いた花なんだけど、まだ綺麗だからもらってよ!内緒でね」

「えー!いいんですか?ありがとうございます。こっそりお部屋に飾ります!」


 持ち場の近い下男や衛兵さん、庭師のお爺さんとか。


「ステラさん、あの、どうしたらそんなに綺麗に床が磨けるの……?」

「ええっと、それはこうして、こんな風に……」


「ステラちゃん、本当にごめんね!ジーナが怖くて、今まで話せなかったけど、本当は仲良くなりたかったんだ……」

「嬉しい!これからぜひ仲良くしてください!」


「ステラちゃん──」


 今まで全然関わる機会がなかった班の女の子たちとか……。

 そして、みんな口をそろえてこう言うのだ。


「助けてあげられなくてごめんね……」


 ぎゃー!いえいえ!とんでもない!だって私、気が付いてなかったんだもん!

 そう思ってむしろバツが悪くなるんだけど、さすがに恥ずかしくて「イジメ、サッキキヅイタ!シンパイナイ!」とは言えなくて。

 ま、まあ、皆が仲良くしてくれるのは嬉しいから、いっか……?さすがにこの「ステラ可哀想」の空気もすぐになくなるだろうし。




 そうして過ごしていると、アンジェリカ様にお呼ばれした。

 もちろん、こっそりと。実は初めてお話してから、あの生垣の近くで度々お会いしていたんだよね。


 アンジェリカ様は先に待っていた私に気が付くと、すぐに駆け寄ってきてくれた。

 そして、なんとギュウウっと強く抱きしめてくれたのだ。


「ぐええっ!?」

「ステラ!あなた、上の立場のメイドにひどい目に遭わされていたんですって!?どうしてわたくしに相談しなかったの!ああ、可哀想に。ステラはこんなにいい子なのに」


 ア、アンジェリカ様まで!

 だけど、アンジェリカ様、柔らかくていい匂い……!

 あと意外と力が強めだな??


 せっかくなのでアンジェリカ様からのハグをしっかり堪能したあと、全然大丈夫なのだとばっちり元気アピールをしておいた。


「むしろ、ジーナさんに頂いていたお仕事が終わったせいで、ちょっぴり暇なくらいなんですよ」


 そう、武器庫の掃除と武器のお手入れが終わってから、ちょっと時間を持て余してるんだよね。

 シルヴァン様へのアピール時間を作りたいがために通常業務を爆速で終わらせるように頑張ってたからなあ。仕事の早さは変わらないのに仕事量が減ったんだから、当たり前だけど。

 まあ、仕事量が減ったというより、普通の量に戻っただけらしいけど……。


 正直なところ、忙しいよりも暇な方が辛い。


 なんてことを考えていると、アンジェリカ様から思わぬ提案をされた。


「それでは、わたくしが王城に上がるときに、あなたを指名してもいいかしら?」

「えっ?」

「王太子殿下に、気に入ったメイドがいれば指名してもいいと言われているのよ。これまでは特にそうしたことはなかったのだけど、ステラさえよければぜひ受け入れてほしいわ。忙しいなら無理にお願いするのもと迷っていたのだけど……」

「ぜ、ぜひ!ええっ!本当にいいんですか!?」

「ステラがいいの!わたくしたち、友達でしょう?職務にかこつけて今までよりも一緒にいられる時間が長くなるなんて最高だわ!あなたの仕事が丁寧で誠実なことも知っていますしね」


 アンジェリカ様……!私のことをそんなに好きになってくれてたなんて!嬉しくて嬉しくて泣いてしまいそう!

 それに、アンジェリカ様のご好意と認められたことが嬉しいのはもちろんだけど、これはメイドとしてもステップアップということになるよね?

 高貴なアンジェリカ様のお側で全力でお仕事している姿を、偉い人が目にしてまたもや魔術師団への道が近づくかも!?


「まあ、実を言うと殿下がわたくしにそう言ってくれたのは、婚約したばかりの頃なのだけれど……今の殿下はわたくしに興味がないもの。いいえ、興味がないどころか疎ましく思っているのかも」

「アンジェリカ様……」

「だけど、撤回もされていないもの。文句は言えないはずよ。特権はこういう時に使わなくてはね」


 悪戯っぽく笑ってみせたけれど、私は見逃さなかった。アンジェリカ様が一瞬伏せた目が、泣きそうに歪められたこと。


 王太子殿下……本当に許せない!



 ◆◇◆◇



 王城を追われたジーナは、馬車に揺られながら後悔の中にいた。


「どうして私がこんな目に……ただ調子に乗ってる新人メイドをちょっと懲らしめたかっただけじゃない……!」


 ある日、急に謹慎を申し渡されたと思ったら、いきなり尋問が始まりそのまま罪に問われたのだ。


「あのぼろくて汚い武器庫が呪われた武器を集めたやばい場所だったなんて知らなかったんだもの!確かに近づくなとは言われたけど、そんな理由なら言っておいてよ!」


 当然、班長が勝手に立ち入り禁止とされているはずの場所での仕事を新人に命じたのだ。大問題である。

 しかし、普通ならば近づいても扉が開かないはずなので、問題にまで発展することはなかったはずだった。ところがステラは開けることができてしまった。

 ジーナの不運は、そもそもステラに目をつけた時点で始まっていたのである。


 ジーナは呪われた武器を集めた武器庫を、身勝手な嫉妬からステラにわざと掃除するように指示したことが非常に問題視され、メイドとしての職を解雇、王都からの追放を命じられてしまった。

 何かがまかり間違って、呪いが放出されでもすれば問題どころの騒ぎではない。

 むしろ、退職と追放ですんだのは、ステラが見事に全ての武器の呪いを浄化したおかげだったのだが……


 そんなことを知らないジーナは、ただただ己の不運を嘆き続けていた。


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