第10話 勘違いに気づきました
次の日、王宮医師に呼ばれて本当に診察を受けることになった。
シルヴァン様、お仕事が早い……そしてなかなか心配性よね。
確かにあの武器庫のほこりっぽさはひどかったけど、よく押し込められていたマーファス家の屋根裏もやばかったし、それに慣れていた私としてはお医者様に診てもらう程ではなかったんだよなあ。
なんて思いながら班の朝礼に向かうと、ジーナさんの姿がなく、代わりにメイド長が今日の申し渡しをしに来てくれていた。
「ええっ、ジーナさん、しばらくお休み?お礼を言いたかったのに……」
ところでやけにメイド長が私を心配そうな顔で見ていた気がするけど、なんでだろう……?
まあいないものは仕方ないか、と今日も今日とてお仕事を片付けていく。
レイラとお喋りしながら洗濯をして、持ち場の他のお仕事をさささっ!と片付け、武器庫に向かう。
たまにシルヴァン様が武器庫にまでついてくるようになったので、これはアピールチャンス!とことさら丁寧に武器を磨いて手入れした。
「ステラ、君は本当にすごいな……」
シルヴァン様が何度か、本当に感心しているという風に私の仕事を覗き込みながらそう呟いていたので、内心私は鼻高々である。
シルヴァン様が、私の仕事を評価してくれている……!!!
これは着実に魔術師団への道が近づいてきているのでは?????
おかげで武器庫でのお仕事はとんでもなく捗り、なんと一週間後には全ての武器がピッカピカになった。新品だと嘘をついてお店に置いても売れそうなレベルだ。
しかし、その次の日。
「ジーナは退職することになりました」
メイド長の言葉に私は絶句した。
ジーナさんが退職!?なんで!?!?
✳︎ ✳︎ ✳︎
「はあ……」
洗濯をしながら思わずため息をつくと、レイラが気遣うように私を見た。
「大丈夫?って、大丈夫じゃないわよね……」
「うん……」
ジーナさん、こんなに急に辞めちゃうなんて。挨拶もできてないどころか、武器庫の仕事を任せてくれたこと、そのおかげですごくいいことがたくさんあったこと、話せてもいないしお礼も言えていないのに。
まあ、仕方ないよね……人それぞれ事情があるもの。なんでやめたのかは分からないけど。
私があんまりしょんぼりしているからか、レイラも慰めモードで接してくれる。
レイラって本当に優しいよね……。
「ごめんね、私も、もっと早くにどうにかしてあげるべきだった。ジーナは気難しいって分かってたし、色々話も聞いてたのに。ただ、ステラがいつも元気に振る舞ってたから、意外とうまくやれてるのかなって。それなら私が事を荒げない方が良いのかなって思っちゃったんだよね」
「うん……うん?」
なんか言っていることに違和感があるな??
レイラ、一体なんの話をしてるんだろ???
「それにしても、本当にジーナってひどい女だよね!ステラはこんなにいい子だし仕事も頑張ってるのに、おかしな嫉妬でステラに嫌がらせするなんて!でも、ジーナがいなくなって本当によかった。これからはもう大丈夫だし、私ももっと気にかけるようにするから、元気出してね」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?」
本当に、一体なんの話!?ジーナさんが私に嫌がらせ?おかしな嫉妬?
全然身に覚えがないんですけど!?
「え、嘘でしょ?だって、一人だけたくさん仕事を振り分けられてさ、進捗の確認もしないで帰るし、洗濯に出すメイド服はわざととんでもなく汚してくるし、持ち場近くの下男や衛兵と喋ると嫌味を言ってくるし、班の他のメイドにはステラと口をきくなって言ってたみたいだし、聞こえよがしな悪口も聞いてられなかったし……なにより武器庫の手入れなんか命じられたんでしょ!?」
「お、おーん……それはそう」
確かに心当たりがある。
だけど、仕事が多いのは期待してくれてるんだと思ってたし、進捗は信頼してくれてるんだと思ってたし、メイド服の汚れは「しっかり者っぽいジーナさんも結構ドジっ子さんなんだな」ってほっこりしちゃってたし……あああ、嫌味には気づかなかった!お仕事に夢中で班の子たちに無視されてるのも気づかなかった……!悪口は普通に聞こえてなかった!私、集中してたりするとそういうところあるから……!
「ほらやっぱり!おまけに突き飛ばされたり、足をかけられたり、持ち物を壊されたり、他にも色々されてたって私もう全部知ってるんだから!ステラがいい子なのは分かってるけど、こんな時くらい文句言ったっていいんだって!」
衝撃の事実。私、ジーナさんにいじめられてたの……?
確かに、今レイラがあげたことをレイラがされてたと想像してみたら……うん!普通じゃないかもしれない!大好きなレイラがそれで嫌な思いするのは許せないかもしれない!
あれっ!?実は私、結構ひどいことされてた!?
なんてこと!鈍いにもほどがない!?
だけどマーファス家で何倍もひどい目に遭わされてたし、ジーナの嫌がらせは結局得することはあれど損することはなかったから、正直全く気が付かなかった!
今まで思っていたことと事実に差がありすぎて気持ちがついていかないんですけど……!!!
しかもどうやら、最近休んでたのは休暇じゃなくて実は謹慎だったそうな。
で、そのまま退職になったと。
さすがに私への嫌がらせ程度で退職にはならないだろうから、もっと問題があったのかも。
呆然とする私を見て、レイラは私がやっと悲しみから目を逸らすのをやめて受け入れることができたと勘違いしたらしい。
ぎゅっと抱きしめて慰めてくれたから、実は気づいてなかったなんてとてもじゃないけど言えなかった。
あと、レイラとってもあったかかった……好き……。
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