第9話 武器庫、入ってはいけない問題?

 

「あの、武器庫の掃除とその中の武器の手入れは班長に正式に任せていただいた仕事で……!け、決して勝手な判断で武器庫に入っているわけではないんです!えっと、えっと、もしも問題があるとしても、そのような事情なので、どうか処分は……!!」


「処分……?いや、君を処分するつもりなどはないよ。すまない、また僕の言い方が悪かったみたいだね」


 処分、ない?首にならない?


 ……よ、よかったーーー!!

 もう!シルヴァン様ってば出会った時から私のことをヒヤヒヤさせてばっかりじゃない!

 まあ、私が勝手に焦っているだけとも言えるけど。やっぱり下心があるからすぐに悪い想像をしちゃうのかな?つまり全部私の心の問題。うう……!


「ただ、あの武器庫には通常入れないはずなんだ」

「え?でも班長に言われて、普通に入っちゃいました……」

「許可という意味でももちろんだけど、物理的に入れないんだよ」

「……?」


 ええっと、どういう意味かがさっぱり分からない。

 困惑するばかりの私を見て、実際に一緒に武器庫に行ってみようということになった。


「いつものように入ってみてくれるかい?」

「はい」


 言われた通り、鉄製の引き戸を引いて開ける。

 そういえば、最初にここに来たときはたてつけが悪くてなかなか開かなかったんだよね。汗かいて、ずり落ちる眼鏡を外して、なんとか開けたんだった。

 でも何度も通っているうちに錆が落ちたのか?最近ではすんなり開くようになっている。


「これは……」


 シルヴァン様は目を丸くしている。

 へへへ、武器庫の中、めちゃくちゃ綺麗になりましたからね!私、本当に頑張った!

 武器にはまだあまり手を付けられていないけど、それでもすぐに済みそうな小さなものは合間合間に磨いたりしているから、いくつかはピカピカになっている。


「そういえば、ここの武器って今はもう使わなくなったものなんですよね?綺麗に磨いてきちんと手入れをしたら全く問題なく使えそうなのに……きっと予算がきちんと配られているから、より新しく機能的な物にかえていっているんでしょうね。さすが王宮騎士団!」


 それで、魔術師団はその辺どうなっているんですかね!?

 騎士団を褒めることで、「魔術師団もそうだよ」とか、国によっては魔術師団と騎士団がライバル関係だったりもすると聞いたことがあるから、さりげなく競争心を煽ることで「騎士団よりも魔術師団はこうだ」とか、うっかり内情が聞けちゃったりしないかと思って、大胆に切り込んでみたんだけど。

 シルヴァン様は「そうだね……」と呟いてなにやら考え込んでしまった。


 うーん、私を責める雰囲気ではないから、何か問題が起こったわけじゃないと思うんだけど。

 ひょっとして、最初のたてつけの悪さだけが報告に上がって、この扉は開きません!って誤解されていたのかもな。


 ……私、こう見えてとっても力持ちだから……普通はこの扉を開けられなかった可能性もちょっとだけある。

 それはさすがになんか女の子として恥ずかしい気がしたので、余計なことは言うまいと黙っておいた。


「一応、体に害がないか王宮医師の診察は受けてもらえるかな?問題ないなら、この武器庫での仕事も継続していいから。ただ、班長には内緒でこっそり僕にも進捗を報告してほしいな。ああ、王宮医師には僕から話を通しておくからね」

「えっ!は、はい、分かりました」


 驚いたけど、黙ってうなずいておいた。

 だいぶ綺麗になったとはいえ、ここってかなり埃っぽくて空気やばかったもんね。

 王城はどこも綺麗だし、貴族なら普通あの空気の悪さには耐えられなくて病気を心配するのは無理もないかも。

 あと、王宮医師の診察にもちょっとだけ興味があったりするんだよね。だってきっと魔法も使うよね?

 あー、私って本当にツイてる!


 ◆◇◆◇



 王宮医師にステラの診察を依頼したシルヴァンは、その足で王太子の執務室へ向かった。


「殿下、報告があります」

「なんだ、お前が私を訪ねてくるとは珍しい」


 シルヴァンは気になっていたのだ。

 ステラには特別な力があるのではないか?


 最初は寝ていた自分にステラが触れたことが始まりだった。

 若くして魔術師団の副団長に就任し、公爵家の人間であり、見目も整っているシルヴァンに言い寄ってくるメイドや令嬢も多かったため、ステラもそういう下心のある接触をしてきたのかと思ったが……。


(肩が軽い?それに、頭痛も消えているし、気分も悪くない……)


 あのメイドが治癒魔法を使ってくれたのかと思った。否定されて、ただの偶然なのかと思いつつも、妙にステラのことが気になり、どうにか言いくるめて定期的に会えるように距離を縮めた。


 その後は別段変わったこともなさそうだったため、やはり治癒能力などは勘違いだと結論付け、それはそれとして仕事熱心で、表情がくるくる変わり、元気なのに一緒にいるとなぜか妙に癒される……そんな彼女にどんどん興味を抱くようになって──


 そこに、武器庫の件である。

 あの時、武器庫にステラが入っていることを知り、驚愕し、言いようのない焦燥感に襲われた。

 ステラの身に何かあるのではないかと怖かったからだ。


 そして、気付いた。


「呪われた武器を、我が魔術師団の精鋭数人がかりで封印していた武器庫が開かれました」

「何……!?」

「……詳しくはこれから調査しますが、武器庫は見違えるほど清潔になり、呪われた武器のうちいくつかも浄化されているように見受けられます。武器に接触した者を観察しましたが、異変もなさそうです。一応医師の診察を受けるよう手配はしています」


 気づいたのだ……ステラは特別な存在だ。

 それは、能力の面でも──シルヴァンの心の面でもである。

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