第2話 魔術師を目指して頑張ります!

 


 王都に着く前に手頃な魔物を狩り、それを売って得た資金でそこそこ綺麗なワンピースに着替え王城に向かった。私があまりにも質素な格好で自分の1.5倍はありそうな魔物を担いできたからか?ギルドの素材買取窓口のおじさんが目を丸くしていたけど気にしない気にしない!


 目的はもちろん……魔術師団への入団試験!!


 乗合馬車を乗り継ぎ休憩も摂らずに三日で到着。ちなみに、神官様の用意した豪華な馬車で王都を目指すスカーレットとその両親はゆっくり観光しながらこちらに向かうはずで。街でも「聖女様がどんな人か楽しみだねえ!」なんて声をちらほら耳にしたのであと二日か三日は到着までかかるのではないだろうか?


「これで、良し!」


 途中で買った分厚いレンズに細工をして度数だけを抜いた眼鏡をかける。王宮に到着したあとの聖女スカーレットに私の正体が万が一にもバレないようにするためだ。幸い私の髪はスカーレットに「地味でお前にお似合いね」と言われた亜麻色で、瞳の色はちょっと珍しい赤だけれどこの眼鏡であまり目立たないだろう。


 バレたらきっと……ひどい目に遭う。ううん、ひょっとして王都から追い出されるかも。聖女は王族と同等の扱いを受ける尊い存在だ。きっと彼女が嫌がれば簡単に追放される。

 絶対にバレないようにしなくちゃ……!


 とはいえ、きっと義理の元家族(ややこしいわね?)は追い出された私がすぐに野垂れ死ぬと思っているだろうから、鉢合わせないようにだけ気を付けてれば大丈夫だとは思うけど。




 王宮の前はすでに人が溢れ賑わっていた。

 毎年この時期に魔術師団の入団試験があることはきちんと事前に調べている。そんなタイミングで王都に来ることになるなんて……本当についているわ!


 ニマニマしながら人の波に呑まれ、なんとなく列に並ぶ。どうやら列は男女で別れているらしい??


 この国では女が魔術師になることは珍しい。多少魔術が使えるくらいでは魔術師を仕事にすることは出来ないと言われているし、魔力が多いのは専ら血を選び繋ぐ貴族で、高貴であればある程才能ある子どもが生まれる確率も高い。つまり魔術師になれる程の能力を持つ女性は大体高位貴族の生まれなのだ。


 けれど、そんな高位貴族の令嬢は大体が結婚して家庭に入るわけで。女性の魔力の高さは結婚に有利に働くという点で何より生かされることになる。


 そのため魔術師団に入ってまで魔術師として活躍するのはほぼ男になる。

 それなのにこの人数……十五人はいるわよね? もちろん男の人の方が圧倒的に多いけど、だとしてもこんなに多いなんて。時代は変わったということ? 隣国では早くから女性の魔術師も活躍していると聞くし、これはいい傾向よね!

 ここに並んでいる人達、みんな志同じくした仲間かあ……!


 うきうきとした気分で列がどんどん短くなり、自分の番が来るのを待つ。



 どんな試験を受けるのかと緊張していたのに、ちょっと水晶に手を当てた後、名前と年齢、職歴を聞かれただけで城に通され面食らってしまった。(ちなみに平民として通して家名は名乗らなかった! 捨てられたわけだから嘘ではない)


 ひょっとしてさっきの水晶が魔力測定魔道具だったとか!?

 え~もしそうだったなら結果がどうだったか気になる!私は魔力を測ったことがない。いつか教えてもらえたりするかなあ。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「いいですか? ここに集められたあなたたちは未経験者です。今必要なのは即戦力! 最初の指導はしますが飲み込みが悪く使えないと判断されればすぐに辞めていただくこととなりますのでそのつもりでいてください」


 私を含めた四人が並べられ、メイド長にそう声をかけられる。

 そう、メイド長に呼ばれ、私達は新品のメイド服を着て並んでいるのだ。


 一瞬魔術師の経験者ってどういうこと? って思ったけど、今言っていたのは多分メイドのや侍女の経験者ということよね……?


 思わず首を傾げると、メイド長は私と目を合わせ、言葉を続ける。


「あなた達が何を目指してこの場所へ来たのかは分かっています。下級メイドの仕事から始めることに不満もあるかもしれません。ですが安心してください、きちんと評価に値する仕事をして順調に出世していけば希望の部署への異動は叶います」


 な、なるほど……!

 やっぱりまだまだ女性が男性と同じ職に就くことは難しい時代。男性と違って女性は魔術師入団試験を受けてその合否で判断されるわけではなく、まずは王宮の他の仕事で成果を残すことを求められるのね!


 そうよね、もしも入団試験に合格した後で男性魔術師についていけません! などとなってはたまらないもの。きちんとキャリアを積んで誠意をもって仕事ができるだとか、要領や思考力、体力なんかがどのくらい備わっているかを試されるんだわ。


 確かに合理的!!!


 私は心の中でガッツポーズを作りながら気合を入れた。

 絶対に超絶有能なメイドになって魔術師団入団への道を切り開いて見せるわ……!!!



 ◆◇◆◇



 王宮前で志願者の受付対応をしていた衛兵達が自身の仕事を終え肩の力を抜き談笑していた。


「ああ~!やっと終わった!本当に疲れた」

「今年は例年と違うし問題が起きないか心配してたが何事もなく終わって良かったな!」


「しかし魔術師団入団試験とメイドや侍女の募集の日を一緒にしなくてもよかったのになあ。おかげで人数が多くて本当に大変だった」


「まあ聖女様到着の前に色々一気にすましたかったんだろう。聖女様付きの侍女を見繕うために人員の足りなくなった分配置換えのためにメイドや侍女を募集するわけだから、教育や準備も必要だろうし」


「それにしても魔術師団入団志望の男たちの目がやばかったな……魔術師団にはなかなか女性が入らないから……今年も志願者ゼロだったし」


「あれだけ女性がいるから一人くらい魔術師団志望がいるんじゃないかと期待してたんだろ。ま、案の定期待外れで終わってたけどな!」


 ハハハ!と笑い声が響く。

 ステラはそんな会話が繰り広げられていることなど知る由もない――。



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