勘違い令嬢は魔術師になりたい~聖女になった義姉に全て奪われましたが、好都合です!~

星見うさぎ

第1話 義姉が聖女になりまして

 



 部屋中が水晶から放たれた温かな白い光に包まれた。


「お、おめでとうございます! お嬢様こそが我々の探していた聖女様でございます!」


 王都から来た神官様が頬を紅潮させ興奮したように声を裏返らせながら宣言した。

 両親が死んだあと、一人生き残ってしまった私を引き取ってくれた義両親がキャアキャアとはしゃいでいる。


 ゆっくりと光の収まった水晶の前に立ち、誇らし気に微笑んでいるのは義理の姉、スカーレット。赤髪に碧の瞳が印象的な美少女だ。



 私の名前はステラ・マーファス、十五歳。私は隣の部屋のドアの隙間の向こうから、そんな奇跡のように幸せな一幕を見つめていた。




 やがて、神官様が「三日後、迎えに上がります」と言い残し屋敷を後にすると、私は義理の家族に呼び出された。


「というわけで、私達は家族で王都へ向かう。聖女であるスカーレットが王宮に召し上げられるのだ。ご家族もどうぞ一緒にと言われては断るわけにいかないだろう?」


 にんまりと笑いながら義父が言う。


「お前の両親が事故で死んで十年、役立たずなあなたをマーファス家の一員として育ててあげたんですもの。もう頃合いでしょう。あなたは今日からただのステラよ。いいわね?」


 蔑むような視線で義母が首を傾げた。


「聖女である私にお前のような妹がいるとバレては外聞が悪いのよ。すぐに出て行ってちょうだいね」


 この度聖女となられた義姉、スカーレットがフン!と鼻を鳴らした。聖女ってもっと慈愛に溢れた天使のような人を想像していたけど、聖なる力があれば心など関係ないのかもしれない。


 こうして私は家を追い出された。家族を失うのはこれで二度目だ。今回の家族がはたして「家族」と呼んでもいいものかどうかはちょっと迷ってしまうけれど。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 そもそもマーファス伯爵家は私の死んだ両親の家だった。

 私が五歳の頃の大雨の日、家族三人で乗った馬車が土砂崩れにあい、両親は亡くなった。

 一人だけ生き残った私を引き取り、義理の家族がマーファス家になって十年。


 暴力はなかったけれど、私は家族と認められることはなかった。よくて使用人。それもとびきり扱いの悪い使用人、だ。

 だけどそれも今日で終わり。


「神殿にて聖女が現れるとお告げがあり、王都から国中を巡って聖女様を探しているらしい」


 そんな噂が流れて数か月、王都から少し離れたこのマーファス伯爵領にもついに神殿の遣いの神官様がやってきて、この度めでたくスカーレットが聖女と確認された。



 家を追い出され、まだ夜が明けきらない道を歩きながら私はぎゅうっと拳を握った。

 荷物は一切持たせてはもらえなかった。着の身着のまま襤褸切れのようなワンピースに、底のすり減った靴。幸いいつもこっそり身に着けていたから、亡くなった本当のお母様の形見であるペンダントだけは持っている。

 だけど、それだけ。


 私は慈悲の一切もなく、文字通り身ひとつで捨てられたのだ。


 こんなのって……こんなのって…………!

 思わずブルブルと身体が震える。


 こんなのって!


「――なんてラッキーなのかしら!?」


 歓喜の震えが止まらないわ!


 十年、長かった! 毎日毎日家事をこなし、嫌味を言われ、やりたいこともできず、いつか家を出る日を想像し続けてきた!

 ただでこき使える私を義家族が手放すわけがないから、最悪自分の死を偽装して家をでることも考え、一人で生きて行けるように色んなことを習得する日々。


 こんなに穏便に(?)家を出ることが出るなんて!


 私は小躍りしながら夜の森に入る。食料調達によく通ったこの森はもはや庭のようなもので暗かろうがなんだろうが全然平気だ。この森にいるのはお腹をすかせた獣か弱い魔物ばかり。全然大丈夫。


 ルンルンで歩みを進める。

 目指すは王都! 長年の夢を叶えるために!


 私の夢……それは王立魔術師団に入り、魔術師になること……!



「絶対に夢を叶えて見せるわー!」


 私の大声で、バサバサと森の木々から鳥が慌てて飛び立っていった。



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