第2話 オレオレ詐欺②

犯行グループから引出理由を尋ねられたら、誤魔化すよう指示があったので、面倒だし小額紙幣だけ引き出す。別にくれてやろうとか思ってないしな。

と思ってたら、どうやら相手が来たようで、スーツ男が現れた。

多分気付かないと思うので、こっちから声をかけてやろう。

「こんにちは。凪根の代理です」

「え? あ、あー、と、ユウスケの同僚の鷺原さぎはらです。」

この受け子、なかなか恰好いい名前だな。ってかサギシのサギハラさんって…。

「本人確認のため、ユウスケか上司の方に電話してもらえますか?」

「あー、えっと、はい」

ん? こいつ、よくよく声を聞いたらさっきの掛け子じゃねぇか。人手足りてねぇのか?

「もしもし、課長…? はい、はい、お電話代わります」

「お電話代わりました、凪根の代理です」

さっきよりちょっと治ってきたからな、これで間違われることはないだろ。

さらに心持ち若そうな声(ってなんだ?)を出してみる。

「凪根様の代理の方ですね?」

「はい。身元の確認はできましたので。では」

そう言ってブチッと電話を切る。そのまま電話を返さずに、銀行の女子トイレに逃げ込み、鍵をかけた。

「えっ!? ちょっと、凪根さんの代理さん!?」

ドアの向こうで鷺原くんが何か叫んでいるが、この際無視しよう。

さすがに女子トイレに入る勇気はないだろ。鍵もかかってるし。

電話を閉じて、ホーム画面にあった、「トークグラム」というアプリを開く。そして、履歴の一番上にある相手とのトーク画面を開く。

そこには、予想通り、オレオレ詐欺の手順の指示が表示されていた。


トークグラムはメッセージアプリだ。

送ったメッセージを、相手や自分はもちろん、アプリケーションの運営側のサーバーから完全消去することができる。

それゆえに、犯罪組織に利用されやすい。

鷺原くんのスマホから見るに、まだメッセージを消す前だったようだ。

メッセージのやり取りをスクショして、私のスマホに送って顔なじみの警察に送信する。

どーせ捕まると思うが、組織内部でも犯人にされちゃ可哀そうだからな。鷺原くんが。

私が温情をやるのは珍しいんだからありがたく受け取れ。

個室を出て、まだ騒いでた鷺原くんにスマホを渡す。

「はい」

「え? あなたは何がしたいんですか」

「さあ?」

とりあえず、小首を傾げてしらを切ってみる。

「じゃあね、鷺原くん。ユウスケによろしくね」

と言って、小額紙幣を持ったまま銀行を立ち去った。


「あ! お金回収できてない!」

俺、鷺原貝柾さぎはらかいまさは唖然としたまま代理さんを見送ったが、大変なことに気付いた。

「まずい、まずいよぉ。上の人に怒られる…」

まぁいいか。バイトだし。

ふとスマホに目を落とすと、なぜかトークグラムが開いていた。

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