現在:繁華街にて

 またある日の事。大仁は繁華街はんかがいに来ていた。

(このあたりか……。例の『化け猫』がいるのは)

『繁華街の化け猫』の話を聞いたのは、先日バーで知り合った反田そりた刑事からだった。

「全身ズタズタの変死体が何件も見つかってるんすよ。現場ゲンジョウはどれも全部同じ路地裏で……」

怪異かいい――『モノノケ』の仕業しわざだろうという目星めぼしは付いていた。

「この路地ろじか」

ビルとビルの狭間にある路地裏の中で、その一本だけが異様な暗闇くらやみに満ちていた。

 一歩踏み込んだ瞬間、闇の中から咬撃こうげきが飛んでくる。

「っ!」

大仁は咄嗟とっさに後ろに飛び退く。

『ヴぅー、ァあーっ‼︎』

現れたのは、大人の身長以上はあろうかという巨大なネコようのモノノケだった。片目が潰れ、元は白かったであろう毛並みは血で固まって赤黒く染まっている。

『ニンゲン、キエろ!』

モノノケの眼窩がんかから小さなネコが飛び出してくる。ネコたちはどれも体の一部が欠けていた。

何故なにゆえそのように荒ぶりたまう!話を聞かせてくれ!」

猛攻もうこうに耐えながら大仁はモノノケに歩み寄る。

『ニンゲン、こどモ、コロし、た!コども、ころシ、テ、ステた!』

モノノケの攻撃こうげきで大仁の顔の肉がげ、手足のきずから血が吹き出す。

「そうか。家族を殺されたのか。何の罪もない家族を……」

『だかラ、ニンゲン、コろす!こどもとおなジして、ころす!』

大仁はき叫ぶモノノケを抱きしめた。

「俺も……、俺も同じだ。お前と一緒いっしょだよ」

『ハァ?』

モノノケは一瞬いっしゅん戸惑とまどったが、すぐに大仁を振り解こうと攻撃を浴びせ始めた。

きみの力を、俺に貸してくれないか?」

足元に血溜まりが出来るまで引き裂かれても、大仁はなおモノノケから手を離さない。

「君の子供たちも一緒に連れて行こう。あったかい布団ふとんと美味しいご飯も用意しよう」

根負けしたのだろうか。モノノケの攻撃が止まる。

『……ほんトォ?』

「ああ、ホントだよ」

大仁の手がモノノケのほおを撫でる。モノノケはその手に顔をすり寄せた。

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