現在:バーにて

 都心としんにある小さなバー。官公庁街かんこうちょうがいに程近いこの店には、しばしば勤務きんむ明けの官僚かんりょうや刑事が息抜きにおとずれる。

 バーカウンターのすみに、ビールグラスを持った人相にんそうの悪い男が所在しょざいなさげに座っている。店内に入った大仁は、彼のとなりに座った。

「あ、お疲れっす。えーと確か、宮内庁くないちょうの……」

おおとりだ。きみ捜査一課そうさいっか反田そりた君だね。北岡きたおかさんの部下の」

大仁の口からスラスラと反田のプロフィールが出てくる。仕事で関わる人間の名前と経歴は暗記あんきしている。

「はい。春から捜一そういち配属になりました」

反田は新卒の新人刑事。今年で不惑ふわくを迎える大仁から見ればまぶしい限りだ。

「そうか。慣れない事ばかりで大変だろう」

「いやいや、新鮮で毎日楽しいです」

大仁の前におつまみのプレートが置かれる。

「反田君、少しもらってくれないか?」

隣席りんせきからの熱視線ねっしせんがプレートに注がれている事に大仁が気づく。

「あ、いや、その……」

しどろもどろの反田に代わり、腹の虫が元気に返答した。

「うう、すんません……」

「ははは。良いんだ、俺も少し量が多いと思っていたからな」

 反田の頼んだ酒と大仁の頼んだつまみが程よく減ってきた頃。

「ところで反田君、アニメやゲームは得意とくいな方か?」

「ええ、まあ、人並みには」

反田の返事を聞いた大仁は、プレートに視線を落として質問した。

「……不死身の怪物を殺すには、どうすればいいと思う」

「えー?不死身ってつまり、死なないってコトっすよね。……うーん」

反田が考え込む。

「火山の噴火口ふんかこうに放り込むとか?」

「マグマの中から自力でい上がってきたな」

「じゃあ、ミキサーにかけるとか」

「ミキサーの中で再生して、危うく永遠に回し続ける羽目になりそうだった」

「なら、さんかなんかで溶かす!」

「溶けたそばから治るから全く減らなかった」

言葉に詰まった反田が頭をく。

「何すかソレ。ムテキじゃないっすか!ズルですよー、ズル」

反田はわった目と呂律ろれつの回らない口でブーイングを飛ばす。

「ハハっ、そうだな」

大仁は乾いた笑いをらした。

「んー、じゃあもう太陽!宇宙行って太陽にブチ込むしか無いっすよ」

「太陽、か……」

荒唐無稽こうとうむけいなアイデアだ。コスト的にも技術的にも無理がある。

「ま、今度試してみるよ」

大仁はおどけた調子で反田の提案を笑い飛ばした。

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