大事な面接③

急いで階段を降りる。

電車の扉が開くのと同時に飛び出した。

ここが何処の駅なのか分からないし、トイレが一体何処にあるのかも分からない。だが、とにかく前へ進まないといけない。

十分間、全く動かない電車に閉じ込められたはずなのに、その間の記憶が無い。一体小生はどうやってあの時間を耐え抜いたのか。

いや、そんなことはどうでもいい。

階段を降りると、真正面にトイレがあった。内股になりながら、小走りで男子トイレに駆け込む。これで、救われる。今までの苦労が報われる。それなのに、個室の扉は全て閉まっていた。

しかも、その扉が開くのを待っているのが一人いる。

もう、だめかもしれない。

腕時計を見ると九時前だった。面接の時間すら守れない。ましてや、今まさに脱糞しそうな人間が社会で真っ当に働けるわけもない。小生には、社会人になるステップはまだ早かったのだろうか。今まで何をして生きてきたのだろう。後悔と羞恥心に苛まれる。

自責の念を抱きながら、全てを諦めようとしたとき、個室の扉が同時に二つ開いた。

小生は、小生はこのときほど人に感謝したことはない。

「ありがとう」

そう言って、小生は片方の個室に入り鍵をかけた。


トイレが詰まっている。


縁ギリギリまで水が溜まり。トイレットペーパーの残骸がふわふわと浮かんでいる。

踵を返し、ここから出てきた奴を追いかけて引きずり回そうかと思ったが、腹が限界だった。

「ふーー」

空なんて見えないのに、思わず天を仰いだ。

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