ep.7 (設定2)教えて、アヤナ先生!:OSとか詠唱法、その2


 ディアのポニーテールが、ビッとなる。

「なんかグダグダで終わったけど。次はキメてよねモニカ? 汚名挽回よ!」

(ディアさん、既にジェリド症候群に……)


 #ジェリド症候群→うっかり汚名を挽回してしまう人たち。


 アヤナは呟くように言う。

「で、モニカ。OS (おーえす) がMe (えむいー) ってのヤツの続きなんだけど」

 モニカはグッと拳を握った。

「はい。ではお待ちかねのOS (おーえす) 、 『Me』(えむいー) です。これは西暦2000年に発売された、Windowsのミレニアム・エディションと言うものです。まあ2000年だからと世の中の全てのメーカーは安易にミレニアム、ミレニアムと連呼して色々と売りたかったみたいですが。OSも同じです。そのMeはマルチメディア系に優れており、ケーブル一本で割と制御できたり、何より98SEから上書きアップグレードが可能……そうMS社は謳っておりました」

「で……どうなったの?」

「結果は散々。そもそも98SEを動かす程度のメモリで、Meはロクに動かせないとか。色々ぶつかってすぐにエラー→ブルースクリーンになる(一切の制御を受け付けない。強制的に電源を落とすしかない) とか、強制的に電源を落としても復帰した直後に何故かまたブルースクリーン(やはり強制終了しかなくなる) とか。Meは、そういうダメダメOSの筆頭として皆の頭にこびりつきました」

 ディアは両手を忙しく振っている。

「……ダメじゃんMS社! そんなへっぽこ売りつけて!」

「ダメっ娘と思えば我慢もできる、なんて運動(?) もありましたが」

「(凄ぇな日本……) 」

 モニカは指をくるくるした。

「但し。これらは98SEからOSを無理やり上書きアップグレードしたり、そもそもメモリが足りないのにMeを入れたりと、消費者側の落ち度も(ほんのり、僅かには) ありました。これは聞いた話ですが、十分なメモリがあり、かつOSは上書きではなくクリーンインストールした状態ならば、Meはそこまで悪いOSではなかったみたいです」


 ディアがポツッと声を出した。

「……じゃあ上書きアップグレード版なんて出さなきゃいいのに」

「だ、ダメっすディアさん! そういうのは色々と!」

「えー。だってー」

「でもこれは多くのVISTAでも似たような感じだったとか。メモリがないのに無理やりOSを入れているせいで不安定になってたみたいです。個人的にはVISTAとか8とかに特にダメさを感じなかった人は……きっとMeで耐性がついてたっぽい、という気が」

 アヤナは指で髪をクルクルさせてから言う。

「耐性がつくって相当なものだけど……そういうモノなのね? でもさ。なんでいつもメモリが足りないの? 増設も面倒だし、相性とか、同期が上手くいくかとかあると思う。最初から多く積んでおけばいいと思うのだけど」

「さぁ……。そこそこメモリは高いですし、メーカーとしては『CPU速い』 とかそう言うのがウケそうですし、そもそもメモリ搭載量よりも『安い』 ってほうが売れるんじゃないですかね? 知りませんが」

 アヤナが軽くぽんと手を叩く。

「ふぅん……。だったらさ。MS社がそのMeの推奨メモリを指定しておけば良かったんじゃないかしら? コレ以上が好ましいです、そしてコレ以下では厳しいです……とか。そういう推奨値を」

「……してました」

「え!?」

「でも足りませんでした……」

「うっわ」

 アヤナは軽く拳を握る。

「じゃあ逆に、めっちゃメモリ積んだマシンをフラグシップにするとか!」

「昔のOSってそんなにメモリは扱えないんですが。Meに至っては『ある程度以上のメモリを積む』 と、逆に不具合がでるとか……」

 アヤナが頭を抱え込んだ。

「ちょっとダメダメすぎない!?」


***


 ディアがふにゃふにゃした。

「ねえねえ。じゃあさー。マイクロソフトとかAppleだけにやらせないでさー。日本も独自にOS作ればいいんじゃない? 売れれば儲かるだろうし」

 モニカはビシッと指を指した。

「おお! 実は。日本製のOSもわりと作られてました。これは結構有名な話なんですが」

(このコが言う有名って)

(どうなのかなぁ?)


「TROM (とろん) です。コンピュータ黎明期に、リアルタイムで色々と動かせるOSだったようです。PCのOSとしては負けてしまいましたが……」

 アヤナが軽く頬を掻く。

「あら、残念ね。日本もOSで儲けらるかもしれなった、と?」

「はい。ただ……TRONってざっくり言うと無償のソフトなはずですよ。そりゃサポート代とかはかかるんで、実務で使おうとしたらまるっきり無料ではないでしょうけど。でも誰でも取っていっていいし、誰がどんなに改変して作ってもいいし、それを公開しようがしまいがどうでもいい。ただただ、社会が発展すればいい、という理念」

「……それで儲かるのかしら?」

「多分、儲かりませんね」

 アヤナは少し考えて、言った。

「じゃあなんでそこに時間と労力かけたの?」

「……趣味?」


 ディアが珍しく手を挙げる。

「はいはーい。私TRONって知ってる! 某国に圧力かけられたり、某メーカーにやられたり、技術者が乗ってた飛行機が墜落したり! そんなヤバげなヤツっしょ?」

 モニカは窮屈そうだ。

「んー、どうでしょうかね。貿易摩擦のリストにはあったんですが、結局は外されてたり。TRONには当時のマイクロソフト社そのものが応援してカネ出してたはずですし。そもそもTRONって無料なんであまり競合はしないと思いますが……でもシェアを取られるかも、と思われたら色々な圧力は確かにあったでしょう。ただそこを大きく取り上げて過剰に印象操作されることも多いようです。だって物語的にはそのほうが面白いですから」

「じゃあ飛行機の墜落は?」

「実際に関係者は乗っていたようですが、偶然の、都市伝説じゃないですかね? だってTRONって、別に誰がどう使ってもいいヤツですから。仮に何十人、何百人とやったところで別に何が変わるわけでもないし」

「えー。なんかガッカリ」

「国内の内輪揉めのほうが、よっぽど大変だったようですよ」


 そこでアヤナが長い黒髪をサラッとさせた。

「結局TRONは標準にはならなかった。そういうこと?」

 モニカは軽く手を左右に振る。

「それがですね。組み込み系としては、今のTRONは世界トップでぶっちぎりのシェアナンバーワンだそうです。例えば通信施設でも、通信そのものは軽いTRONがやってるとか」

「おぉ」

 ディアが両手の拳を握って前のめりになった。

「すっげー! じゃあじゃあ! これから日本、めっちゃ儲かるんじゃね!?」


「いえ、アレ無料なので……」


「ぅおおおお! ダメじゃんか!」

「理念は大好きです。あと実用面でも凄いみたいですね」


***


 そこでアヤナが言う。

「で、モニカ。ウチの話なんだけど」

「?」

「だからウチの『本編』において、そういう話はどうなってるのかと」

#本編、というか。アヤナのとこにOS (Me) はよく登場している。



 当のモニカと、ディアがビクッと固まった。

「ヤバ、最初はそんな話でしたね!」

「うっかり聞き入っちゃったよ。私、海原雄山はマイクロソフトを嫌ってる、ってくらいしか知識なかったから」

「いえディアさん、だからそれは海原雄山ではなく山岡さんで……」

 二人はキャッキャしている。『何この疎外感』 とかいつも思うアヤナだった。でもまあ、それでいて楽しいのだから気楽な間柄だ。

 アヤナはコホンと咳払いをする。

「で、ウチの世界観の場合なら。どういうのがいいの? ウチにはネットワーク的なものがないから、新しい主流のものでいいのかしら? あとどれもバージョン高いヤツがいいの?」

 モニカは目をくるくるさせる。可愛い(言動はともかく)。

「古いOSでも問題いないです。が、前提として。魔法の道具あるいはそこに組み込まれる術式なんかが全て新型であるならば、新型がいいと思われます……いやそう思いたい、そう願いたいです」

「なんか言いにくそうね?」

「そうですねぇ……。新しい方が威力とか精密さとか色んな効率とかコストとか、何かは上がっていると思いますし。テストもされているはずだし、そりゃ新しいほうがいい」

「ふんふん」

「でも新型は現場で使われた実績がまるでないとも言えますし。そして昔の術式なんかの場合は……いっとー新しいOS上では巧く動かない場合もあります。なので『安定性』や『堅牢性』で言うなら、『枯れた技術』を使うのも選択肢もアリかと」

「そうなのかしら?」

「はい。リアル世界で、現時点では。飛行機のシステムはWIN2000とフロッピーで動いているはずです。ネットワークに繋げないのならそれで十分どころか、そっちのほうが実績もあるし確実らしいですね」

「へー」

「でもまあ確かに、(ウチの世界でも)OS が Me って時点でちょっとヤバい気はしますが……」

 モニカがそう言った時だった。


 ディアがペラッと、一枚の紙をアヤナの前に置いた。

「はいアヤナ」

「ん? これ何、ディア?」

「シメよ、シメ。アヤナが最後になんとなくこれ読んでくれれば、形になるんじゃないかと」

「ふーん? ま、コレ読めばいいのね?」

 モニカまでコクコク肯いている。

「教えて、アヤナ先生!」


 何だか(いつものように)キャッキャしているディア&モニカだ。

 ぽつんとアヤナは思っていた。


「(私が教えたのって、『MS-DOSを嫌っているのは海原雄山じゃなくて山岡さん』くらいのものだけどなぁ……)」



……



 #装備の運用。術式、OS (みたいなの)を、皆がどう思うかざっくりした傾向


ディア→とにかく新型がいい。人柱上等!

タニア→少し昔のがいい。だって色々な「実戦」を潜り抜けているという「実績」があるから

レーン→今の、一般的で標準なのがいい。時代や地域を問わず調達しやすいから

ウェイン→かなり昔のでも、安定してるのがいい。威力などは二の次。最小限の計算が狂うと怖いので。調達しにくいのは我慢する。

エリストア→各団体の支給品みたいなもの。色々な人と融通できるから。


アヤナ→見た目がいいヤツ

モニカ→名前が凄いヤツ



……



『ウチの世界の魔法について色々』


###以下の魔法関連は、特に術者によって色々違います###



『詠唱法』各種色々


イントロ(入門) :適当に使う。初歩の初歩。詠唱時間も適当。多くの人間はこれしかできない。イントロで高級な魔法を使うメリットはほぼなく、逆に、魔力が強い魔法をこの詠唱法で使うと暴発などの危険があるほど。


イージー(簡単) :主に初級魔法用途。しかし体系のモノの中ではある程度簡単に火力や精密性などを制御できる。魔法の効果はピンキリ


ベーシック(基本) :基本である。普通である。ただしコレを使って『どのレベルの魔法を実戦レベルで扱えるか』と言うのは一つの目安になる。ウェインはこれで上級魔法をも使えるが、アヤナはこれだと初級魔法しか扱えない。


エクステンション(拡張) :主に魔力の低い者が、自分より高い魔法を扱う時によく使われる。自分よりもレベルが高い魔法をサポートできる詠唱法だが、詠唱時間も長く威力や精度もかなり落ちてしまう。そのためウェインは特にこれを好まない。しかしアヤナが必死に高度な魔法を使おうとすると必然的にコレ。


アドバンス(上級) :これを使いこなせれば一人前!マスタークラスの魔法使い!のような風潮がある。実際はアヤナのレベルでも、詠唱自体は(まあまあなんとか)使えるのでたいしたことはない。

 基本的に上級魔法はこれで扱う。ただし『型』としてのアドバンスはかなり洗練されていて、色々な魔法の色々な特性を制御できる。詠唱時間は本来は長いのだが、優秀な魔法使いはこの詠唱法を相当に訓練しており、その結果として時間はそこまで遅くならない場合が多い。


マキシマム(極大) :主に極大呪文や禁呪法を扱う時の詠唱法。あるいは相当に高度な魔法を扱う時の詠唱法。普通の人はコレを訓練しないし、そして使う機会すらない。


ファスト(高速) :最も素早い詠唱法。ウェインがよく使っているせいでアレだが、『ただ早くなるだけで実戦では役に立たない』 と言う見方をされることも多い。威力とか精密さがかなり落ちるため。


無詠唱:何の詠唱も (仕草も) しない。威力や精度は最も低くなる。訓練や実験用に使う場合がほとんど。但しブラフとしては時々使われる。最もみなぎっている時の初手でコレを使うと相手はビビるし、手の内を晒さないことが一応のメリットにはなる。



(魔法の種類、ざっくりした区分)


低級 :多くの人間が使える魔法。マッチのように火をつけたり、明かりを点けたり


初級 :駆け出しの魔法使いが使う。また魔法使い以外でもまずはココから。レーンは『高速詠唱法』でこの初級を使用したが、彼の場合は直撃でないとたいした効果は出ない。ウェインはこの「初級」の重要性を説いている。


中級 :コレを安定させて日に何度も使えるようになれば、立派な「魔法使い」を名乗れるレベル。


上級 :少しでもこれを使えるようになれば、並以上の魔法使いとされる。しかし実戦での運用となると別で、本格的に使うには更に相当な訓練が必要になる。このクラスを安定させて一日に数回使えれば、相当上位の魔法使い


極大 :これを使える人間、そして安定してそれを引き出せる人間はごくわずか。使用には事前の届け出、ないしは事後承諾の形でも公共機関に連絡が必要。ただし使い手がかなり少なくすぐバレるので形骸化していることも多い


禁呪法 :自分や他の人間、あるいは生態系などへの被害の恐れがあるという理由で基本は禁止されている魔法。但し種類や威力などは色々あり、たいしたことのない出力のものから、極大魔法を超えるものまである。

単純な区分けの一つであり、必ずしも禁呪法が強いわけではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る