(設定1)教えて、アヤナ先生!:OSとか詠唱法、その1
「ねぇモニカさぁー」
アヤナの方から、ディア&モニカに声をかけてきた。
これはある種の異常事態なのではと、二人は挙動不審になる。
「ど、ど、ど、どしたの? アヤナ」
「な、なんスかアヤナさん……」
「……。なに二人ともキョドってるのよ」
「いえ、まあ。ところで本当にどうしたんです、アヤナさん」
「えっと。モニカなら知ってるかと思って、聞いてみたいんだけど」
「はぁ」
「ウチの子(部下)がね。装備に使われているOS (おーえす)が『Me』(えむいー)って聞くだけで何とも微妙な顔をするんだけど。あれ何?」
モニカは天を仰いだ。
「んー。ま、そりゃ微妙な顔もしますよ……」
ディアはちょこんと手を挙げる。
「そもそも『OS』って何さ」
モニカは指を振る。
「ふんふん。これはつまり、新コーナー。『教えて、アヤナ先生!』と言うことでよろしいですね!?」
アヤナは頬を掻いた。
「ま……そういうのはどうでもいいわ。でも私、モニカのほうに教えてもらおうと思ってたんだけど」
「そこは、それですよ。いいですか、アヤナ先生!」
「あ、はい」
するとディアは勢いよく片手を上げた。赤茶色のポニーテールも元気そうだ。
「はいはーい、アヤナ先生! そもそも『OS』(おーえす)って何?」
アヤナがちょっと首をかしげながら答える。
「えぇと『オペレーティング・システム』。基本ソフトとも呼ばれるわ。その上で、色んな魔法が動く。なんだかファンタジー世界でこんなのあるのウチだけな気がするけど。普段いらないっぽいし」
#アヤナ隊長のトコが採用しているだけである。多分。
ディアは続けて質問する。
「OSって、何するの?」
「数打ちの量産品や、サタデーナイト(テキトーな粗悪品)には関係ないんだけど。例えば剣に魔力が封じ込められていたとする。魔力を流し込むと、剣が炎に包まれる炎の剣だとする。するとそこには幾つかの『魔法』の力が封じ込められているわけで。複雑なのや高機能な魔法の力を安定してドライブさせるには魔法ごとの調整が必要なの。そのチューニング次第で良し悪しとか安定とかも随分変わるし」
「で、OSってどこで働いてるのさ」
「術式として組み込まれて……OSの上でプログラムとかアプリみたいなのが動く。わかりやすく言うと一つでも魔法の力が込められている武具や道具は、基本的にOSの上で動いている。だからまあ……パッと見はわからないかな」
モニカが助け舟のようなものを出す。
「OSには色々種類があって。ウチの世界ではユニバーサル規格をクリアしているものは沢山あります」
アヤナは頷く。
「まあ……ウチの『ユニバーサル規格』みたいのが、ファンタジー世界では既に珍しいんだけど」
ディアが目をくるくるさせる。
「じゃあOSってよくわかんない場合さ、とりあえず有名どころの最新のを使えばいいの?」
モニカが何度も頷いて、しかし首を振った。
「それがですね。特に正解はないんですよ。言語化するなら『必要な機能を必要なだけドライブしてくれて、安定していて、堅牢で、かつシンプルなもの』が最適と言えるかもしれませんが……そもそもOSに種類がありすぎですし、バージョンもありすぎですし。どうしたって相性もあります。一つの魔法をドライブするのは得意だけど2つ以上の並列処理は苦手とか、その逆とか……色々あるんで」
アヤナが感嘆した。
「へー、じゃあモニカ。それなら『OSがMe』ってどう言う意味なの?」
……アヤナがモニカに聞いている時点で、既にタイトルの『教えて、アヤナ先生!』から外れている気がするが。
モニカは言う。
「じゃあコレはウチの本編ではなく、ちょっとリアル世界の話になりますが」
「ふーん?」
「まずOSは例えば、WINだのMACだの、AndroidだのiOSだの。Linuxだの、そういうもの(ウチの世界では似たようなカンジのモノ)があって。更にそれぞれ違うバージョンがいくつもあります」
ディアが少し声を落とした。
「Me (えむいー)ってのは、何かヤバいの?」
「まあ……多少。えぇとMe (えむいー)って、マイクロソフト社が西暦2000年に出したWindowsなんですけれど。……まずですね。昔はDOS (どす)って言われるモノが流行って(?)ました。『ディスク・オペレーティング・システム』。コレは真っ暗な画面で呪文を打ち込まなきゃ、プログラム……例えばワープロが立ち上がらない。内部の効率は良くても、とっつきにくい。そんなOSでした。でもWindowsでは3.1で直感的な操作ができるようになって。マウスを使って実行したりはココからですね。あとは音楽を聞きながらワープロ使えたり。一応のマルチタスクの走りです」
「何さ? 一応って」
「当時はメモリやCPUの占有とかがそこまで調整されてなかったんで、結局2つ以上のプログラムを走らせると不安定になる(環境)が多かったみたいです。一方、AppleもMacintoshに特化して作りました。マウスを使っての直感的な操作はマックが先で、当時はグラフィックやイラスト関係ではMACがかなり優位だったようですね……お値段はともかく」
「お値段が高い、ってのは手が出しにくいかも」
「そうですねアヤナさん。でもMacintoshはMS-DOSよりもおしゃれだったし」
ディアはうんうんと頷く。
「だからSM-DOS、なんて海原雄山が悪口を言うわけね!」
アヤナが慌てて止めに入る。
「ちょっ、それ言ったの山岡さん……!」
「あ、そうなん? じゃあ海原雄山はどっち派なん?」
「知らないけど」
モニカは頷く。
「ともあれ(狭義の)MS-DOS……当時はPC/AT互換機、あるいはDOS/V等と(日本では)呼ばれました。これはIBMが作ったコンピュータの仕様を公開して、その規格内であれば互換が取れるというものです。ウチのユニバーサル規格みたいなものですかね」
「おぉ。互換が取れるって素敵な響き……!」
「しかし日本は、DOSはDOSでもNECが独自のPC-98を作っており、そのシェアは相当なものでした。IBM自体が日本語化を面倒がっていたせいもあるらしく。それでPC-98とDOS/V(今の汎用PCの走り)は、日本ではPC-98が圧倒的で、日本は当時のPCの時代からガラパゴスだったんですね。日本のPC-98規格はDOS/Vでは使えず。世界のDOS/V規格は日本のPC-98では使えず」
「へー。大変だったんだねぇ」
モニカは咳払いをした。
「ちょっと話が脱線するように聞こえるかもしれませんが……まあ聞いて下さい。フランス人っているじゃないですか」
アヤナは頷く。
「そりゃ、フランスにフランス人は大勢いるでしょう?」
「日本人ってフランス・パリとか『おしゃれ発信基地』みたいに捉えてますよね?」
ディアが頷く。
「まろゆきもフランスに亡命したしね」
アヤナは小さい声で言う。
「あれ亡命まではしていないと思うけど……」
モニカは仕切り直した。
「実は。実はですよ……? フランスの柔道人口って、日本より多いんです」
ディアがビクッとした。
「えぇあ!?」
「多いどころか、日本の三倍くらいいます」
「めっちゃ柔道、流行ってるじゃん!?」
「はい。ちなみにフランスでは柔道を教えるのにライセンスが必要」
「そうなん!? じゃあ日本ではそういうライセンス、ないの? どうやって教えてんの!?」
「はい。テキトーな黒帯がテキトーに教えます」
アヤナは関心したと同時に、ちょっと不思議に思った。
「でもさ。そのフランス人たちは。なんで極東の島国なんかに興味を持つのよ」
「それは私に聞かれても困りますが……最近でもアニメの翻訳やコミックの翻訳・そしてその出版はかなり早い部類の国ですし。なんちゃらボールとか、セーラーなんちゃら、とか、あっちでも凄く流行ってる……どころか薄い本も出てますし。なんなら今でも出版され続けてます。ちなみに全世界で『HENTAI』と言う単語は通じますよ。全世界のソレ系を検索したいなら抑えておくべきワードです」
「へぇ(この子プチ情報知ってるよね)」
「のび太さんのエッチ(H?)のしずかちゃんが世界を動かしていたのかも」
「しずかちゃんも、流石にそこまでは……」
モニカは目をぱちぱちさせた。
「えっと。そこでさっきのPCの話に戻るんですけど。日本はガラパゴスで海外進出はしていないので、海外の人々はPC-98で遊ぶことができませんでした。世界はPC/AT互換機とかMacintoshしか手に入らなかったので」
「遊ぶ、ったって。どこでも似たようなモンあるでしょ? 同じパソコンなんだから」
モニカはグッと拳を握った。何故か顔が輝いている。
「日本、そしてPC-98のお家芸。それは『エロゲー』です」
「は!?」
「当時は16色とかしか使えないほど貧弱だったんですが。世界に先駆けてというか、まあ貧弱ながらエロゲー文化がありました。あのスクウェアだって『ロリータ・シンドローム』とか出してましたし、今ではお硬い感じのKOEIだって『団地妻の誘惑』とかリリースしてましたよ?」
「(また日本の恥部を知ってしまった……!)」
「(コイツ本当に13歳だよな……?)」
「ともかく、PC-98ではエロゲの下地があった。だけど日本以外の全世界ではエロゲはほとんどなかった。なのでフランス人……を含むヨーロッパのファンたちがツアーを組んで日本に来て、秋葉原でPC-98と関連商品を買い漁った……と言う実にソウルフルな話が残っています」
「ソウルフルかなぁ……。で、OSの話はどうなったのさ」
「あ、そうでした。えぇと。そこに全世界でWIN-95が発売されました。1995年発売ですね。ここに来てNEC独自のPC-98は押され、段々と駆逐されていきます。WIN95はかなりインパクトがあるOSだったんですよ。メディアも友好的に取り上げました。そしてそれまで軍事組織や大学に限定されていたインターネットも次第に開放され、『パソコン通信』もそろそろ追いやられます」
「ん? インターネットって最初は軍事関係だったん?」
「はい、軍事目的ですよ。今では通販やエロ、友達なんかにお手軽にアクセスできるアレ、くらいな認識ですけど」
「(ヤベー、てっきりそういう程度のアレかと)」
「ちなみにスマホの地図のGPSも軍事から転用されました。地図を読まなくても場所がわかる、という歩兵の夢のような技術だったんです」
「へー。ちょっと信じられないけど」
「ともあれ、そこでかなり完成度が良かったWIN95ですが、後継のOSとしてWIN98が出ます。これは当初に悪い報告も少しあったんですが、アップデートでWIN98SE (セカンドエディション)となった時。人類は理想を手に入れました。98SEの上でプログラムは色々と動き、とても安定していたのです。そのため当時のPC野郎は安全と平穏と、そして逆に興奮、挑戦、夢と希望などを手に入れました。CPUをちょっと無茶してクロックアップさせて(そしてなんとか冷却させて)強引に動かすとか(最悪壊れます)、数々のパーツをお店を回って買っては組んで、カタログスペックと実用ではどうかとか、相性なんかに一喜一憂して。まさに天国です。……この時点ではMacintoshは少し押され気味でしたね」
「へぇ」
んーっと。アヤナが『伸び』をした。
「話の腰を折っちゃって悪いんだけど。もともと今って、私の部下がMeを見るとイヤな顔をする……って話じゃなかったっけ?」
「あ」
ディアが挙動不審になった。あくせくしてる。
「OSとか、Meってかさ。土台となる技術なら。ウチ(の世界)の世界観にだって色々あるじゃん? 色んな設定とか」
「そりゃ、あるでしょうよ」
アヤナがそう言うと、ディアは小さく叫ぶように言った。
「じゃあ、例えば魔法は!? 魔法の色んな種類とか少し言ってみてよ! ウチ独自のさ! アヤナは魔法も使えるビキニアーマー系ツンデレお姫様なんでしょ!?」
モニカも叫ぶ。
「教えて、アヤナ先生!」
「ん。私にはビキニアーマーもツンデレも先生も関係ないと思うんだけど……。それに魔法の種類とかいきなり言われてもなぁ。んー。例えばウェインって高速詠唱法でむっちゃ早く魔法を準備できるじゃない? でもあの人、そもそもイージーだろうがベーシックだろうが凄く速いし威力もあるのよ。……子供の頃は『型』を知らなくて、イントロで上級魔法をやってたとか。聞くだけじゃ危ないと思うけど、暴走や暴発したことはなかったらしいわね。私じゃアドバンス使っても中級魔法の威力も速度も精度も怪しいんで、やっぱりそういうモノかと」
ディアとモニカがぱちぱち拍手をした。
「おおおおお! 教えて、アヤナ先生!」
ディアの叫びにモニカが呼応する。拳を握って、天を仰ぎ何故か涙を流した。
「教わったんですよ、必死に!」
「『必死に教わったんですよ』よりも、それっぽいね!」
「ソレっぽいでしょ」
「おー!」
ディアとモニカが例によってキャッキャしていた。
特に何かを教えたわけでもないのになぁ……とアヤナは思い。
楽しそうな友人二人を眺め。
こう、思っていた。
「(やばっ。何の話だっけ!?)」
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