(ディア3):やだもー現象

「あのさー。私たち、女子高生じゃん?」

 またディアが何か言い出した、という感じだった。アヤナとモニカは口を開く。

「私『たち』? たちと言われても」

「ってか自称している人はいても、本物はいなくありません?」

 ディアは指を振った。

「いやいやいや。雇った女(しかもちょっと歳いった)にセーラー服を着せて『素人女子高生』と名乗るのと同じような状況」

「なるほど!」

 なんだかキャッキャしてるディア&モニカだ。一方のアヤナはのんびりしている……彼女は普段、活発で煌めいていて、素敵で晴れやかだ。それがここまで自然体でいることは極めて珍しい。周りはもう、家族みたいなものだから。

 そのアヤナは言う。

「で、女子高生だと何なの?」

 ディアはグッと拳を握る。

「コラボと言うか。女子高生に色々やらせれば絵も映えるし、色んな層をたくさん取り込めるかも、って思って。私、色々と斬新なアイデアあるんだ」

「ふーん、斬新ねぇ……例えば?」


「女子高生&軽音部!」

「……」

「女子高生&戦車道!」

「……」

「女子高生&キャンプ!」

「……」

「女子高生&株式会社ガンダム!」


「ねえ。ディアって、知ってて言ってるわよね?」

「てへ」


 そこでモニカはわりとのんびりした感じで言った。

「戦車道と言えばディアさん。当時、指揮車の4号の通信手・武部沙織が照れた時に『やだもーっ!』って言うセリフ、あったじゃないスか?」

 ディアはコクコク肯く。

「んー、あったあった。脳に響いて、もうすっごく印象的に残ってる。彼女の代表的なフレーズだよね」

「実はですね……ん、コレ言っちゃっていいですかね?」

「言っちゃえー!(勢いだけ)」


「あれ、作中では 一 言 も 言 っ て な い んですよ……!」

「ぇぇあぁ!?」


 ディアがガタッと立ち上がった。

「マジなん!?」

「マジです。本気と書いてマジと読みます」

「じゃあなに!? 私の、私の頭に響いていたあの謎のセリフは何なのさ!?」

「不思議ですよねー。集団幻聴なんでしょうか。結構みんな聞こえたって言ってました。何なら今でも聞こえますし、むしろ頭の中で再生余裕です。ひょっとしてサイコフレームの共振的なサムシングかも」

「ぅおおおぉ! 世の中ってすげぇ……! これ記憶もアテにできないね! どう? アヤナは聞こえてた?」

 アヤナは軽い笑顔のまま、手を広げてから呟くように言った。

「残念だけど観てないわ。当時録画予約は設定してたんだけど、『タイトルがなんかエロっぽい』と言う理由で父上に消された」

「あぁ……ちょっと聞いた響きだとそうかも」


 モニカも肯いている。

「そうですね。われめDEポン、ばりに響きが卑猥ですし」

 ディアとアヤナは、言葉にこそ出さなかったが『コイツ本当に13歳だよな?』とか思っていた。


 そのモニカは言葉を紡ぐ。

「でもでも。さっきの『やだもー現象』のことを考えたんですけど。近い事例としてアムロが『行きまーす』とはあまり言ってないとか、星一徹がちゃぶ台ひっくり返したのは一回だけとか、そんな感じな気がします」

「え!? そうなの!?」

「そうなんですよディアさん。あと実はジェイソンはチェーンソーを使ったことはない、とか」

「ぅぉおおお!」

「『知っているのか雷電!?』のセリフは、作中で実は10回ちょっとだけ、とか(雷電が勝手に解説を始める、もしくは『お前なら知っているだろ、雷電!?』と解説を頼まれるなどの変化球はある)」

「……」


「今後はですね。こういう、表現と言うか、主に視覚・聴覚・イメージなどに強く影響を与えて記憶すら曖昧にさせる……そんな『やだもー現象』の類似の事例を集めて検証チームを発足させ、官民一体となって研究を……!!」


「「((コイツ。13歳どころか女子高生どころか、有識者を名乗れるんじゃね?))」」


「ん? どうしました、お二人とも」

「いえ。別に何でも……」



 たじろいでいるディアを庇うように、アヤナは声を上げた。

「モニカって、わりと豆知識というかプチ情報知ってるわよね」

「そうッスか? やだもー」

 くるくるの瞳をしたモニカが少し照れた感じで答える。やっぱりこの子は可愛いなぁ、とか思ってしまうアヤナだった。言うことは少しアレだけど。

「ねえモニカ。じゃあさ。極秘情報ってないかしら?」

 モニカはニッコリ微笑んだ。

「じゃあコッソリ教えてあげますね。実は、実はですよ……!?」

「「(わくわく! わくわく!)」」


「カープの北別府と相撲の琴別府は、別に生き別れになった兄弟とかではなく普通に赤の他人である」


 一瞬、間を置いて。

「そりゃそうでしょうよ」

 とかボソッと言ってしまうアヤナだ。


 モニカは何故か目を輝かせながら続ける。

「カープの緒方監督は怠慢プレイをした野間を何度か殴ったけど、その二人を仲裁した人たちの中に、何故か移籍一年目の長野 (チョー)さんがいた」

「それって、めっちゃいい人じゃん!」


「ジャイアンツ対カープ戦。サヨナラインフィールドフライの時の三塁ランナー、野間は。あまり状況がよくわかっていないがとりあえずホームに突っ込んでいる」

 ・時々やらかしますが、とてもいい選手になりました。野間。

 ぼんやりアヤナは思っていた。

「(この子、やたらカープが好きみたいだけど。まさかカープ女子?)」


 モニカは自信満々に続ける。

「ズゴックが何の脈絡もなく宇宙で襲いかかってきたりする」

 ぽかんとしているアヤナと、めっちゃ驚いているディアと。

「ええ!? アレ水中用なのに!?」

 #冒険王版です。「ゼーゴック」は宇宙から落として捨てます。


「『当社比』の『当』って、別にアタリ社とは何も関係がない」

「むしろ関係あったら凄いわね」

 #世界はアタリ社が基準となっているかも。


「カシナートの剣で有名な『刀匠カシナートさん』なんて、そもそも存在しない」

 ディアがビクッとした。

「え!? 刀匠カシナートさんって、いないの!?」

「(ってかカシナートの剣って何?)」

 驚いているディアと、不思議そうにしているアヤナだ。……いいトコ育ちの彼女は、あまりサブカル系に詳しくはない。


 そのアヤナは、ちょっと不満そうに声を上げた。

「なんだかすごく局所的な話題じゃないかしら? もっと、こう、なんというか。普通に通用しそうなプチ情報はないの?」

 モニカは呆然とした。

「え。今までのが普通に通用するかな、って思ってたんスけど……」

「えぇ……」


 モニカは肩を落として呟いている。

「東海大相模 (とうかいだいさがみ)と東海大相撲 (とうかいおおずもう)の区別がつかないとか、ヘクトパスカルは昔ミリバールだったとか、DOS/V(今の汎用PC)のシステムドライブはCだけどPC-98のシステムドライブはAとか、天津飯には大小を問わずかめはめ波が効かないとか……」

「「(やっぱりこの子、13歳とは思えないよね)」」


 モニカは天を向いて、何故か涙を流している。

「じゃあ、もっと万人向けのプチ情報を」

「「(なんで泣いてるんだろう……)」」


 モニカは毅然とした感じで言い放った。

「『サメの多くは人を襲わない』」

 アヤナは思わず声を出していた。

「あら、そうなの?」

「えぇ、そうなんですよアヤナさん。映画の影響で物凄く怖いですが、多数いる鮫の中でも人間に噛みついてくる種類は何種類かだけです。逆にダイビングでは鮫の中に囲まれるスポットとかよくありますし」

「へぇ」

 アヤナ&ディアはそんなプチ情報に感心していた。モニカは続ける。

「あとは……『ピラニアは人間を襲わない』とか」

「それもイメージからくるものなのかしら」

「そうですね。水族館のショーでやってますし」

「凄いわねモニカ、物知り」

「えへへ。やだもー」


 そしてモニカは自信満々に言い放つ。

「『女子高生と女子校生では、意味が異なる』」

 ディアが嬉しそうにぽんと手を叩く。

「あ、それは  常  識  よね!」

 モニカとディアは、今度は何故かキャッキャしていて楽しそうだ。アヤナだけ(割とよく)話題に置いて行かれる。



 そんなアヤナは、ふと思っていた。

「(そもそもディアが主役っつってんのに、なんでモニカが生き生きしてるかなぁ)」



 同人誌の検品中に性に目覚めた女なんて、こんなものだ(失言)。




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