(ディア2):幕末的なサムシング
宇宙空間。
とあるMS(?)の中で。
ウェイブライダーで突っ込んで決着を着けたディアの、彼女のメットのバイザーは破損していた。
モニカが恐る恐る声をかける。
「でぃ、ディアさん? あのー、大丈夫です?」
通信で、ディアの返答が返ってくる。
「ああ! 待ってろ、メットを交換する!」
するとディアは、リニアシート(?)から身を乗り出し、壊れかけた全天周囲モニター(?)を叩きながら言い始めた。
「大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、大きい……赤い彗星かな。イヤ、違う、違うな。赤い彗星はあんまりバーって動かないもんな」
モニカとアヤナが崩れ落ちた。
「あぁああぁあああ! メット交換してないじゃないすか! 今、フェイントいれる必要ありました!?」
「ってか何気にディアって例の兄さんディスること多いわよね」
アヤナはため息をついた。ディアという女性は大事な仲間だし、仲の良い友達だし、人生の先輩だ(彼女は今15歳の女子高生と言い張っているが)。そして明るいし、気が効くし……。一言で言えば『黙ってれば可愛いし魅力的』なのだけど。
モニカがディアをちょんちょん叩く。
「ディアさん。あのー、なんで例の赤い兄さんのことディスるんです? 苦情とか来たら本気で怖いんですけど」
「……」
「何かイヤな思い出でもあったんスか?」
「ガルマ様を謀殺したから」
「(まさかのガルマ派!?)」
「(しかも様付け!?)」
「当たらなければどうということないって言うくせに、例の剣がメットに当たってるし」
#冒頭で。メット繋がり、を演出したかったかどうかは不明。
「あの、敵を作りたくないんで、そろそろやめてもらっていいスかね……?」
おどおどしているモニカだ。一方のアヤナは黒髪ロングを掻き上げながら、さりげなく話題を変えた。ここらへん、さりげなくできるのは彼女の性格と育ちの良さが覗える。
「ねえねえ。ところでさ。学校時代、何の部活に入ってた? わりと私たちも、みんなの昔のことって知らないわよね」
モニカは答える。
「そうですねぇ。私は陸上ですよ。中距離。アヤナさんは?」
「いえ、私は家のほうで忙しかったから、部活には入ってないわ。帰宅部ってやつ」
ディアがニコニコする。
「『帰宅部』ね。私と一緒だね! アヤナは活躍したん?」
アヤナもモニカも既になんとなく違うっぽい気がしたが黙っていた。ディアは続ける。
「私は小学生の低学年の時に、既にね。将来を嘱望された帰宅部員だったんだよ」
アヤナもモニカも、動きが止まる。
「……『将来を嘱託された』?」
「……『帰宅部員』!?」
「うん。数々の帰宅部員が駄菓子屋やゲーセンに寄り道をして頓挫してしまったけど、私はルールを守って頑張って真っ直ぐに家に帰った」
「((帰宅部のルール!?))」
「中学年になると『そもそも学校へ行かずに公園へ行く』という裏技をも独自で編み出したよ。大会での使用は禁止なんだけどさ」
「え、待って待って。なんだか私の知ってる帰宅部じゃないんだけど!?」
アヤナの声に、ディアは小首を傾げる。
「ん? エクストリーム帰宅部の話じゃないの?」
「((エクストリーム帰宅部ぅ!?))」
「高学年になった時は、レギュレーションギリギリの『6時間目開始直後に早退』を駆使して帰宅部員としての腕を磨いたんだ」
ニコニコ笑うディアだ。その笑顔は、いつも見せる愛くるしい感じだったが……まあ発言が愛くるしいわけでもない。騙されてはいけない。
そのディアは続ける。
「エクストリーム・帰宅大会では常に上位だったし。小学校5年生で県大会準優勝。6年生で県大会優勝(全国ベスト8入り)だったなぁ」
アヤナとモニカは小声で言う。
「う、嘘よね? 違うわよね!?」
「そうですね……。ディアさんの言うことですし……」
だがディアは迷いなく続ける。
「中学に入ってから。私はさらに『帰宅』の腕を磨いたわ。中学生にして親元を離れて『北区』へ留学して」
アヤナとモニカはぼんやり思う。
「(中学生に部屋は借りられないと思うけど……)」
「(学生で家に一人って、なんだかエロゲーの主人公みたいッスね)」
するとディアは虚空を見つめ。
そして懐かしむように呟いた。
「転機が訪れたのは、坂本龍馬との出会いだったわ。『これからは世界を見なくてはならんぜよ』との言葉に感銘を受けて」
「(さ、坂本龍馬ぁ!? 流石に、流石にガセですよね!?)」
「(落ち着いてモニカ! 多分そうよ! ディアの言うことだし!)」
「それで私はエクストリーム・帰宅部を退部。中学1年生という早い時点でアルティメット・帰宅部へと転向したわ」
「(えぇ!? さらに!?)」
「(さらに上の帰宅部があるの!?)」
「『アルティメット・帰宅部』……その世界は、想像以上に凄まじいものだった。私は己の未熟さを知り、血を吐くような努力をした……。敗れはしたけど、イチローとの、ドラッグバントからのランニングホームラン勝負でも健闘したわ(ぴの、には勝利)」
「ぴのに勝ってるんだから物凄いじゃないですか!」
「ってか、イチローはその上なの!?」
『ディアの戦績』
中学1年・全国大会ベスト4→樹海、カルト宗教、サイド7、あの世、からそれぞれ帰宅。
新人王獲得。ゴールデングラブ賞受賞。モンドセレクション受賞。
中学2年・全国大会準優勝→決勝戦で悟空さと競り合うも、彼のテレポートによって敗北。
敢闘賞、沢村賞を獲得。グッドデザイン賞受賞。ミスコン2位。横綱に昇進。
中学3年・全国大会優勝→決勝は「カーズ」氏(彼は戻れなくなったため失格)。
大会MVP獲得。サイ・ヤング賞受賞。バロンドール受賞。ノーベル平和賞受賞。政治家への出馬打診、また男塾・次期一号生筆頭の打診がくる。
#その後に江田島平八と会談があったのだが、内容は公開されてはいない。
『アルティメット帰宅大会・レギュレーション』
・死んだらアウツ(但し生き返ればOK。自力・他力は問いません)。家に戻れないと失格。
・異性の家に寄ると大幅減点や失格。永久追放もありうる。
・帰宅困難な場所から、少ない装備・資金で帰宅すると高得点。ルートや装備によりポイント加算。美しく帰宅すると芸術点が加算。
モニカは呟く。
「……芸術点とか何スか。美しく帰宅って」
「んーとね。普通、帰った時は『ただいまー』とか言うじゃん? でも某ナイスガイは『私は帰ってきたあぁあ!』とか叫んで、当時は物凄くポインツ高かった」
モニカは反射で叫んでいた。
「ちょっ、やっぱりいいです!」
アヤナとモニカは、恐る恐る聞いてみた。
「あの……さ。ねえディア。嘘よね。今の話。全部……」
「そうですよ。だって、そこまではちょっと信じられないと言うか……。流石に坂本龍馬まで出されては……」
ディアは一瞬真面目な顔になると、すぐにいつもの、満面の笑顔になった。
「嘘でーす☆」
「あ、良かった……」
「テンテンくん得意のブラフでーす☆」
「(テンテンくんってブラフ得意なんスかね……)」
「(ってか、テンテンくんって誰?)」
軽く笑い合っている二人を前に。
ディアは軽く拳を握りしめ、目をつぶりながら、心の中で叫んでいた。
「(龍馬! 日本は今、やっているぜよ! 今まで、戦争も災害も、政治も経済も、色々あった……そりゃ色々あったさ。汚職も腐敗も犯罪も、色々あった。でも日本はやっているぜよ! ああ龍馬! 今の日本は衣食住は完備され、飢饉の心配もなく、子供は労働ではなく教育を受けられるようになった! 多くの人間が読み書きができて、単独で世界と通信できて、娯楽も味わえるようになった! そして国は国際社会で存在感を増し、各種文化はソウルフルだと評価され海外から観光客が訪れる……そう、今はそんな時代なんだ!)」
ディアは赤茶けたポニーテールを振るように、東の空を見た。
「龍馬……日本の夜明けぜよ」
(気を取られていた)アヤナとモニカは、ディアの言葉を聞き逃していた。
「ん? どうかしたのディア?」
「何スかディアさん?」
ディアは(通常運転の)笑顔を見せると、二人に向き直った。
「なんでもないよー☆」
色々と謎。
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