第3話 オッサン、日月を食らう双狼と戦う
バドシールとグーロが村から姿を消してから、どのくらい経ったろうか。
グーロよりもでっかい狼が2頭現れて、毎晩のように家畜を襲うようになった。
家の中に隠していても、ドアを破って入ってくるんだ。
村の人たちは、そいつらにハティとスコルという名前をつけて、次は自分たちが食われるんじゃないかと思ってみんな怯えていた。
そのうち、残ったのは村いちばんの金持ちが飼ってる、ソール(太陽)とマーニ(月)という馬だった。
こいつらよく働いてね、みんな自分ところの馬がいなくなったら、こいつらに頼るしかない。
ところが金持ちのやつは強欲でね、馬を貸す代わりに、村のみんなに小作人になれって言いやがるのさ。
馬も牛も羊もいなくなっちゃったところで、人の力だけで畑耕して、取れる作物なんてたかが知れている。
みんな困ったけど、仕方なく小作人になることにしたのさ。
すると金持ちは言ったね。
「じゃあ、ソールとマーニは身体を張って守れ」って。
腹の立つ話だけど、しかたがない。
こいつらがいないんじゃ、生きていくだけの作物なんか、何にもできやしないんだから。
そしてとうとう、ハティとスコルはソールとマーニを狙ってやってきた。
みんな小作人になっちゃったから、手に手に熊手や鎌を持って、馬小屋の前で待ち構えていたよ。
でも、でっかい狼が2頭もやってきたら、どいつもこいつも、蜘蛛の子でも散らすみたいに逃げちゃってね。
馬小屋は、大きな顎と牙で、すぐに食い破られた。
逃げたソールをスコルが追いかけ、マーニの方はハティが追いかける。
ところが、狼たちの前に、天から降ってきたものがあったんだよ。
逃げる2頭の馬を忘れてむしゃぶりついたのは、骨だったね。
何だかデカい動物の、骨だった。
暗闇の中から叫ぶ声がある。
「こっちだ!」
飛んでくるのは白い骨だ。
ハティとスコルが飛びついていく先に、見覚えのある男がいる。
肉屋のバドシールだ!
バドシールは夜の闇の中を走りながら、背負った籠の中の骨をほいほいと投げる。
それにつられて狼たちも、後を追いかけはじめた。
だけど、骨がいくらあっても、いつかはなくなってしまう。
そのうち、空になった籠を投げ捨てたバドシールは、急に姿を消した。
魔法を覚えたわけじゃない。
薪の山がいくつも積んであるところを見つけて、そこにかぶせてあった雨よけのムシロ布をかぶったんだ。
片手には、グーロをさばいた、あの牛刀。
そこで狼たちを待ち伏せて退治しようとしたんだろう。
ところが、待っても待っても、狼たちはやってこない。
ムシロ布を除けてみると、目の前にはスコルのほうがいた。
目を光らせて、人を小馬鹿にするように、ニヤッと笑ったね。
その後ろへ走ってきたのは、馬のソールだった。
骨を残らず食っちまったせいか、スコルはそっちに気を取られて飛びかかろうとする。
バドシールはすかさず、そのうしろから牛刀で斬りつけて、あっというまに息の根を止めてしまった。
そのまま、逃げる回るソールを捕まえようとしたけど、肉屋の足じゃ追いつけない。
そこで、後ろの薪の山の向こうへ、今度はマーニがやってきた。
こっちも捕まえようとしたけど、やっぱり逃げられた。
バドシールはがっくりと首を垂れて、とぼとぼ薪の山の周りを歩く。
ぐるっとひと回りっと回ったかと思うと、いきなり牛刀を振り下ろした。
薪の山から、狼の尻尾が出ていたんだ。
憎々しげに吠えて跳ね起きたハティを、やっぱり後ろから斬って息の根を止める。
マーニを食うのをやめて、スコルの仕返しをしようとしてたんだろうな。
さて、夜が明けたところで、村いちばんの金持ちはバドシールに言ったね。
「助けてくれとは言ってない。馬も帰ってこないじゃないか」
さらに、村の人たちにもこう言った。
「ハティもスコルもいなくなった。心置きなく小作に励んでくれ」
みんな怒りだしたが、何も言えやしない。
すると、バドシールはこう言った。
「みんなを小作人にしないと約束するなら、馬を返してやる」
そんなことはできやしないと思ったんだろう、金持ちは首を縦に振ったよ。
すると、遠くから、馬のいななきが聞こえるじゃないか。
ソールとマーニが、並んで帰ってきたのさ。
そんなわけで、みんな喜んでバドシールを見送ったね。
もちろん、お礼なんか出さないで。
仕方ないよ、別にバドシールが魔法を使ったわけでも何でもないんだから。
馬っていうのはね、自分のねぐらに戻ってくるもんなのさ。
バドシールも、損はしなかった。
これだけでっかい狼の皮は、高く売れるんだよ。
肉と骨は……どうなったか知りたいか?
知りたくないよな。
ハティとスコルが飛びついたでっかい骨は、何の骨だったと思う?
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