第2話 オッサン、巨獣と戦う
お前ら、グーロって知ってるか?
でっかい犬の身体に、でっかい山猫の頭が乗っかってるでっかい化け物だよ。
こいつは人を襲ったりはしないんだが、冬になって山の中に食うものがなくなっちゃったら、たいへんなことになる。
お前らだって、腹が減って兄弟げんかをすることがあるだろ。
まだ、人間はおふくろさんが夕飯つくってくれるからいいが、獣はそうはいかない。
食うものがなくなったら、人里まで降りてこなくちゃいけないんだ。
夜が明けるまでかかって荒らされたねえ、畑も作物も。
人や家畜は、家の中に隠れてたけど、見つかったら食われてたろうな。
ところが、この村の腰抜けども、自分で退治しようなんて考えもしない。
そこへ、干し肉売りに身をやつして諸国を旅する勇者、肉屋のバドシールがたまたま現れたわけだ。
バドシールは言ったね。
「おい、売れ残った干し肉を買ってくれたら、グーロを退治してやるぜ」
背中に背負った籠いっぱいの、余った干し肉を買うものは誰もいなかった。
グーロを退治できるなんて、誰も思ってなかったからね。
そこでバドシールは言ったんだ。
「じゃあ、グーロを退治したら、売れ残った干し肉、全部買ってくれよ」
それなら、と村のみんなは承知した。
さて、その日の夜、グーロは人里へやってきて、作物を荒らしはじめた。
それを確かめたバドシールは売れ残った、背中の籠いっぱいの干し肉を背負って、何にもしないで山の奥へと入っていったね。
夜が明ける頃、また山から下りてくると、腹いっぱいになったグーロに出くわした。
売れ残った、背中の籠いっぱいの干し肉は、どこかに置いて身軽になってたよ。
グーロは食い意地が張ってるから、手に持った干し肉をちらつかせたバドシールを見つけると、すぐに飛びかかってきたね。
そこで抜いてみせたのは、でっかい包丁だ。
屠って吊るした牛をさばくやつだから、ほとんど刀だよ。
その要領で、ぶんと振ってやると、その勢いの凄まじいこと!
ひらりと身をかわしたグーロは、籠を負う背中を向けたバドシールの後を、よだれを垂らしながらついていった。
追いつかれそうになるたびに牛刀を振って脅しつけながら、山の奥へと入っていく。
そのうち、木がびっしりと生い茂るようになった。
グーロは、わざわざその間を通るんだよ。
腹いっぱいでも食おうとするから、木の幹ので身体を絞って、食ったものを吐き出しちまうんだな。
そうして腹ペコになったところで、また獲物を貪り食うわけだ。
……バドシールがどうなったかって?
次の朝、空になった籠を手に持って帰ってきたよ。
肉とグーロはどうしたって聞いたら、ついて来いって言う。
どんどん山の中に入っていくと、大きな木の枝から、でっかいグーロがぶら下がってるじゃないか。
よく見ると、籠を背中に括っていた紐で吊るされた牛刀が、死んだグーロの顎を上下に貫いて、釣り針みたいに刺さってた。
売れ残りの干し肉を残らず牛刀に刺して餌にしておいたら、グーロがそのまま飛びついて、ひと呑みにしちまったんだね。
バドシールは言ったね。
「さあ、約束の金を払ってもらおうか」
村の人は知らん顔をした。
村いちばんの金持ちが、いちばん強欲だったね。
「売ってくれるはずの干し肉はどこへ行ったんだ」
そんなことだろうと思ったぜ、と言うなり、バドシールは牛刀を振り上げる。
みんな肝をつぶして逃げたけど、振り向いたヤツは、グーロがばらばらにさばかれるのを見たらしい。
その後、バドシールとグーロがどうなったかっていうと……聞きたくないんだな、その顔は。
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