5 中学時代

 中学校に上がった私は、相変わらず小学校時代の悪友たちと悪さをしていた。

 学校のプール下に秘密基地を作り、そこで焚き火をしたり、廃工場や閉鎖された学校に忍び込み、警察や警備会社を呼ばれたり、公園で本格的なサバイバル・ゲームをしていた。

 その一方で、私は生き辛さを感じてもいた。

 中学一年生のとき、私はクラスメイトたちと馴染めずに孤立していた。悪友たちは別のクラスにいた。

 私はその頃、ノートに相関図を作っていた。

 私は誰にとっての一番なのか知りたかったのだ。

 だが私は、誰にとっての一番でもないようだった。悪友たちの中で、一番仲の良かった男子は、別のクラスで新しい友人たちと楽しくやっていた。

 私は、深い孤独感と疎外感に陥っていた。

 私は悪友たちと体育会系の部活に入ったが、そこでの練習があまりにキツかった上、顧問の先生と先輩たちも恐ろしかった。

 私は少しのあいだ、不登校になった。

 朝、父が仕事にでかけると、私は学校に電話をかけ、熱で学校を休むと伝えた。

 しかし、すぐに父にバレてしまった。怪しんだ担任が父に連絡を入れたのだろう。

 私は父親にこっぴどく叱られ、学校に行かざるを得なくなった。

 その夜、私は布団の中で、ある計画を立てた。

 翌日、走ってくる車に飛び込もうと。

 大怪我をして入院すれば、学校に行かずに済むと考えたのだ。

 翌朝、私は道路で車に飛び込もうとしたが上手くいかなかった。何度か試みたあとで諦めた。

 教室に着くと、私が車道を行きつ戻りつしているのを目にしたと、女子生徒が私に言った。

 クラスメイトたちが私を気遣ってか、話しかけてきてくれた。私にはそれが嬉しかった。

 しかし、それでも私の孤独感は癒えなかった。やはり私は、誰かにとっての一番ではなかったからだ。

 一番でなくては意味がなかった。



 私の成績は小学校の高学年ごろからガクッと下がり、中学校では目も当てられないレベルになっていた。

 自分でも驚くほど勉強ができなくなっていた。

 テストで40点を取れれば御の字で、10点や5点というのも珍しくなかった。

 初めて0点を取ったとき、「そんな点数が、漫画やアニメの世界でなく、現実に存在するのか!」と愕然とした。

 私のテストの順位はいつも、学年内 (250人以上いた) で下から数えたほうが圧倒的に早かった。私より下の順位にいる者たちは大体5、6人ほどで、それは私の悪友たちか、不登校でテストを受けていない者たちだった。

 父親にテストや通信簿を見せる度、彼は激怒した。

 「ここまで言われて悔しくないのか⁉︎」と父は、私を怒鳴りつけた。

 私には、それがやる気を起こさせるための方法論のように思えた。実際そうだったのだろう。

 だから私は、頑なに勉強をしなかった。父のことが嫌いで、彼を喜ばせたくないという理由もあった。

 当時の私は、反発と反逆の違いがわからなかったのだ。

 「反発」とは、相手の価値観にただ反することであり、「反逆」とは、自分自身の価値観と相手の価値観が対立することだ。

 私は、他者や社会に反発するということが、相手の基準で生きるということだと知らなかった。相手の価値観のネガで生きるということだと。

 余談だが、そのような人間は簡単に操られてしまうだろう。左を向かせたければ、「右」と言えばいいのだ。あまのじゃくというのは、素直さの反転に過ぎない。

 私は勉学に背をそむけ続け、ひたすら遊びに興じた。悪友たちと外で悪さをし、家でテレビ・ゲームをし、漫画を読み耽った。



 中学三年生になっても、私はまだ悪友たちとつるんでいた。私たちの行為は、ほとんど犯罪にまでエスカレートしていた (ほとんど、ここには書くことのできない内容だ) 。

 周囲はとうに受験ムードだったが、私たちにとってはどこ吹く風だった。

 私たちの見た目は、完全にヤンキーと化していた。

 私は某漫画の影響で、髪をオール・バックにし、眉を剃り上げていた。悪友たちの何人かは髪を染めたり、隠れて煙草を吸い出していた。

 私の高校受験は面接だけで、その高校の偏差値は40にも届いていなかった。悪友たちは、他の高校を受験していた。

 中学校を卒業し、高校の入学式が始まるまで、私たちは、悪友の家でたむろしていた。

 ある日、私は理不尽な理由から、悪友の一人を殴りつけた。

 数日後、私たちはレンタルDVD店に深夜でかけた。そこには部活の後輩がいた。彼の風貌もヤンキーとなっていた。

 私が彼をからかっていると、奥から男が現れて私に詰め寄ってきた。彼も明らかにヤンキーだった。

 私は彼のことを知っていた。同じ小学校の出で、私は小学生の頃、彼の腹を蹴り飛ばしたことがあった。喧嘩を売られたことの報復だった。

 彼は、自分がキックボクシングをしていると言った。

 私は彼に外に連れ出され、悪友たちの前で暴行を受け、土下座させられ、あり金を全部むしり取られた。

 悪友たちは黙ってそれを傍観しているだけだった。

 今から思えば、これも因果応報だったのだろうが、当時の私にはそれがショックだった。しばらくのあいだ、立ち直れなかったほどに。プライドがズタズタになった。道端の、濡れたダンボールのように。

 私はそれがきっかけで、不良から足を洗うことになった。

 私は今では、私を土下座させた彼に感謝をしている。あの一件がなかったら、今ごろ自分がどうなっているのかわからないからだ。

 私は悪友たちの中にいることで、自分に力があると感じていたが、それが幻想だったということを、その一件で身をもって知った。痛いほどに。

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