第16話 今はまだ、こんなふうに過ごせたら嬉しい。
「おかえりなさいませお嬢様」
「ギディオン様がおみえになっていらっしゃいますよ。応接室にお通しております」
「まずお着替えをなさいますか?」
「ええ、おねがい。でもそんなに凝ったのは要らないから。なるべく早く着替えられるものにしてね」
そう侍女のレイヤに任せて。
黄色の花柄のワンピースに着替えたあたしはギディオン様が待っているはずの客間に急ぐ。
ああ、お待たせしてしまったかな。
でも、今夜も来てくれただなんて。
約束をしているわけじゃないけどこうして毎日のように会いにきてくださるギディオン様。
それがとっても嬉しくって。
あたしは結局今はガウディのリンデンバーグ家所有のお屋敷に住んでいる。
王都のお屋敷よりは規模は小さいけれど、それでも立派な貴族の館、別邸だ。
平民の部屋に帰るつもりだったあたしがそのことをお父様に伝えたら、真っ青なお顔になったお父様。結局どうしてもと泣きつかれゴリ押しされた形でこの別邸で暮らすことになったのだった。
まあでもここならこうしてギディオン様にもお会いすることができる。
だからまあ、よかった、のかな?
「おじゃましてるよ。セリーヌ」
「ありがとうございます。今夜はお食事ご一緒していただけます? お時間大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。昨日は顔を見にくる時間も取れなかったからね、今日は頑張って時間確保してきたよ」
こちらもお父様にゴリ押しされ今のあたしはギディオン様の婚約者の座についている。
もう少しゆっくりお付き合いしていきたかったけど、貴族社会ではそういうわけにもいかないらしい。
なにしろ、婚約者でもない男性と親しくするというのは女性にとっては醜聞の素なのだそう。
男性にしてみても、浮名はあまりよくはみられない。
パトリック様なんか、そのお立場からか表立っては批判されなかったものの、随分と評判を落としていたのだと後から聞いた。
表向き、あたしと離婚してからご病気になり公爵位を引退したという事になっているパトリック様。
っていうか、離婚届は実はあたしが家出をして割とすぐにマリアンネが役所に届けていたらしい。
パトリック様本人は知らなかったみたいだけどね。
まあでも、そのおかげで今こうしてギディオン様の婚約者としておさまって貴族社会にも認められているのだから。よかったのかなってそう思って。
「じゃぁ今夜は美味しいご飯、作りますね。リクエストはありますか?」
「じゃぁ、君がこの間作ってくれたオムライスっていうの? あれがいいかも」
「あは。オムライス。腕によりをかけて美味しいオムライスを作ります。ちょっと待っててくださいね」
厨房には一応シェフも居るけど、その人に手伝ってもらいながら自分の好きな晩御飯を作るのが今のあたしの楽しみで。
こうしてギディオン様にも食べてもらえるのがほんとうに嬉しい。
一人で食べるよりも、二人で食べた方が美味しくて。好きだ。
恋愛、とか、実はまだよくわかっていない。
恋愛小説のような甘々な関係はこそばゆくてまだダメだ。
パトリック様を好きだと思っていたのだって、今にして思えば子供の恋心だったんだなってそう思う。
でも。
大好きだよ。ギディオン様。
あたしの愛情がいっぱいこもったご飯つくるから。待っててね。
今はまだ、こんなふうに過ごせたら嬉しい。
そんなふうに思って。
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