熟練の男性冒険者にスキンヘッドが多い理由

あずま八重

とある戦士と僧侶の会話より

 若いころは、邪魔だとかだとか思っていた。わずらわしく思わなくなったときにはすでに危機が迫っていたのに、それと気付くことなく雑に扱い、今生の別れへと拍車をかけていたと今なら分かる。

 だが、一体どうすればよかったのだ。野宿多き冒険者稼業の身で一心に守れようはずもないのに。


「俺ぁよ、どうして熟練の男性冒険者にスキンヘッドが多いのか、身をもって知ったんだ」

「ゲハルトはいつも唐突に語り始めますね」

 未だ深い茂み持つ僧侶サフサは、焚き火に薪をくべ、半ば笑いながら続きを促してくれた。


「旅の中で水を潤沢に確保できないから髪の手入れが大変ってのはもちろんあるがよ。この生活が長くなってくると、無くても困らないしむしろ無いほうが都合がいいんじゃねえかって、ある日気付いちまうのだけが救いだな」

「なるほど、生活サイクルや体質だけが理由ではないと」

「あったところでモテるわけでもないなら誰でも剃っちまうさ。一度見限っちまえばツルリンピカリよ」


 まぁ、俺は薄くなるまで随分しがみついちまったけどな。そう小さくぼやいたが、丸めた頭を悔いているわけではない。


「衛生面の他にストレスもあるな。トラップを間一髪回避しきれなかった次に部分的にクルから困りもんだ」

「そういえば、火を噴くやつに焼かれてましたっけ」

「ギロチンが掠めてったこともあったな。罠の専門家が居ないパーティーはどこもそんなもんだ」

「戦士と僧侶、よくもまぁ二人でやってこられたものです」


 そこは、花形のダンジョン探索を早々に諦めて魔物討伐しながらの自由気ままな旅がらすに転向したお蔭だろう。でなきゃ魔法使いもほしかったところだ。


「なぁ、サフサよ。お前はまだ若いし、たぶん俺みたいにゃならんとは思うが、もしこれから先の仲間に悩める男が居たら伝えてくれないか。『危機一髪を切り抜けてきた勲章だぞ』ってな」

「ははっ! それじゃあただのオヤジギャグにしかなりませんよ。でも、そのときまでにもっと真剣味のある言葉を考えておくことにしますね」


 サフサが結界石に魔力を込めて防護障壁バリアを展開するのを見て、睡眠不足の心配がないだけ頭には優しかったかもしれないなと思うのだった。



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熟練の男性冒険者にスキンヘッドが多い理由

2024.01.13作


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