天野さんはいつかこの気持ちを伝えたい
柊なのは
最初の一歩
いつからだろう。私が、見かける度に彼を目で追うようになり、好きになったのは。
彼と出会ったのは高校の入学式。その日、話して以来、クラスも違ったので彼とは話すことはなかった。
クラスが違うこと、関わりがないことを言い訳にして私は、仲良くなりたいのに何もしようとしなかった。
何の接点もない私が声をかけていいのだろうか、話すとしてもまず何を話せばいいのだろうか。悩んでいるうちに私は高校3年生になった。
クラス替えがあり、座席表を見ると彼の名前があり、私は思わず声を漏らした。
「あっ……」
彼と一緒のクラスになれた喜びで私は、嬉しさが顔に出てしまう。
「何、好きな人と同じクラスにでもなったの?」
友達である彼女は、私の表情を見てそう尋ねてきた。
顔にはあまり出ない方なのだが、彼と一緒のクラスになれて嬉しいかったことはどうやら隠しきれなかったようだ。
「はい。少し気になる人がいました」
入学式以来、話していないというのに私はまだ彼のことを覚えている。優しくて、明るい笑顔の君のことを。
新しいクラスでの1日目。話しかけようと何度か決意したが、いざとなると勇気がなくなってしまい話しかけることができなかった。
後、一歩の勇気があれば、話しかけられる。なのにその一歩が中々踏み出せず、1日が終わろうとしている。
私が彼に話しかけられるチャンスはこの1年。このまま、また明日声をかければと思っていたらいつまで経っても彼と話せない。
帰りのホームルームが終わり、クラスメイトは教室を出ていく。彼は、友達と話しており、まだ教室に残っていた。
まだ話しかけるチャンスはある。ここで話しかけなければまた同じことを繰り返すことになる。
話しかけることを決意し、一歩踏み出そうとしたその時、友達から声をかけられた。
「由良、一緒に帰ろ~」
「すみません。少し用があるので今日は一緒に帰れません。明日は帰れますので」
声をかけると決めたんです。もう私は変な理由をつけて逃げたりしません。
「わかった。じゃあ、また明日ね」
「はい、また明日です」
友達と別れ、私は「よしっ」と心の中で呟いき、彼のところへ向かった。
「ふ、福原くん!」
緊張のせいか声が少し上ずってしまった。私が彼の名前を呼ぶと、彼と話していた人達の視線が私に集まった。
し、失敗してしまいました。彼が1人でいる時に話しかけた方が良かったかもしれません。
と後悔してももう遅いのはわかっている。声をかけたんだ、ここは前に進むしかない。
「私ら先行っとくよー」
「あっ、うん」
彼の友達は、二人っきりの方が話しやすいと思ったのか、この場から離れた。
ありがとうございますと彼の友達に言ったものの、二人っきりの方が緊張する。
「えっと……」
名前を呼ばれ、彼は私を見て名前を思い出そうとしていた。
私は入学式のあの日に一度自己紹介をしただけだ。覚えているわけない。一度会って話しただけの私の名前なんか……。
そう思っていると彼は、思い出したのか口を開いた。
「天野由良さんだよね?」
「あっ、はい!」
覚えていてくれた……。嬉しさのあまり私はいつもより大きな声を出してしまった。
「やっぱり。なんか会ったことあるなって思っててさ。入学式の時に会ったよな?」
「はい、私のヘアピンを一緒に探してくれました。あの時は、本当にありがとうございます」
「いえいえ、大切なものが見つかって良かったよ。俺の名前、覚えてたりする?」
彼は、覚えられているか気になり、私にそう尋ねた。
「覚えていますよ。福原凪くんですよね?」
「うん、合ってる。天野さんと同じクラスになったことってないよな?」
「はい、今年が始めてですね」
彼とは話しやすい。緊張して上手く話せないかもと声をかける前は不安に思っていたが、今はそんな不安は全くない。
「だよな。今年、1年よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
勇気を出して良かった。もし、いつものように理由をつけて逃げたりしていたら私は今、彼とは話せていない。
勇気を出して踏み出した一歩。けれど、ここで終わらせてはいけない。
「あ、あの……」
「ん?」
「も、もし、福原くんが嫌でなければまたお話ししませんか?」
そう聞くと、彼は、優しい笑顔で頷いてくれた。
「うん、もちろん。俺も天野さんともっと話したい」
私ももっと話して彼のことが知りたい。見ているだけはもう終わりだ。
好きだというこの気持ちを持つだけでなにもしない自分とはもうさよならしよう。
「すみません、お友達と話していたのに声をかけてしまい」
「いいよ、そんな大した話をしてわけじゃないからさ。俺は、天野さんに声かけてもらえて嬉しかったよ」
嬉しいと言われて私は頑張って声をかけて良かったなと思えた。
「じゃあ、また明日学校で話そう」
「はい、また明日、学校で」
彼と別れてた後、私は彼と話せたことが、嬉しくてふふっと笑った。
────翌日
学校に登校し、教室に着くと先に来ていた福原くんと目が合った。
彼は優しく微笑み、私も微笑み返した。
「おはよ、天野さん」
「おはようございます、福原くん」
(いつか彼にこの気持ちを伝えられるといいな)
(完)
天野さんはいつかこの気持ちを伝えたい 柊なのは @aoihoshi310
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