第11話 カラオケの部屋の中
高校生はルーム料金が0円だけであり、代わりにワンドリンクだけ注文するという格安プランで3時間コースを選び、2人で指定された部屋に入る。
由依は小さい頃から距離感が近いタイプである。
いつもカラオケに来ると俺の隣に座ることからもそれが分かるだろう。
人付き合いが昔から苦手だった俺に普段から側にいてくれ、ずっと面倒を見てくれていた。
いつも通り2人で並んで椅子に腰掛け、ウーロン茶を2人分注文する。
届くのを待ってから由依が端末を操作して曲を入れると、マイクを持って歌い始める。
2人でカラオケに来ると、基本的に4分の3は由依が歌う形になる。
俺自身歌うのは嫌いではないものの、決して歌うことが得意なわけではないので、そこに関しては全く不満はない。
また、由依は90点を安定して取れるくらいには歌が上手く、聞いているととても気持ちがいいのだ。
今ちょうど歌い終わった最近流行っていたアイドル物のアニメの主題歌、これもモニターに97点という高得点が表示されている。
「おつかれ、今日も最高だね」
「あら、ありがとね、玲」
激しい曲で由依の息が少し上がっていたので、俺はウーロン茶を取って渡す。
相当喉が渇いていたのか、ゴクゴクと音を立てながらグラス一杯を飲み切ってしまった。
「よし!玲!デュエットするわよ!」
「えー……」
「はいはいマイク持って!歌うわよ!」
「はーい」
気持ちよく歌えてテンションが上がってきたのか、由依は俺にもマイクを持たせるとデュエットできる曲を幾つか予約していく。
少しめんどそうな声を出しはしたものの、仲のいい友人とこうやって友達らしいことをするというのは、本当はかなり嬉しいので、外には出してはいないものの結構テンションが上がっていたりもする。
そしてそれは2人で何曲か歌った時だった。
「ねぇ、玲……」
「……ん?」
今までの楽しい雰囲気とは一転、由依の声には少し悲しみのような感情を帯びているような気がした。
「玲はさ……、姫乃さんのこと、どう思っているの……?」
「えっ……?」
俺は姫乃さんをどう思っているのだろうか。
俺が路地裏で奇跡的に助けることになった時は小さくて、軽くて、そして弱々しくて、そんな印象だった。
しかし、その後の彼女は元気で、積極的で、そして穢れを知らない純粋な笑顔がとても魅力的で可愛く、男性の庇護欲を内側から掻き立てるような、そんな魔性を持っているようにも思う。
この短い時間、されど様々なことがあった濃厚な時間。
「なんか子犬みたいな、いい友達……かな……?慎二や由依以外の友達がさ……、漸くできたのが嬉しくてさ、ちょっと俺は浮かれてるのかもしれないね」
「そう……、良かったわね……。新しくできた友達、姫乃さんはいい子だと思うししっかり大切にするのよ」
由依は俺の答えを聞くと、優しく俺の頭を撫でながらそう言った。
俺は姫乃さんと慎二や由依、皆んなで仲良くなって遊べたらいいな、なんて漠然と俺の幸せな未来について思いを馳せていた。
だからこそ、由依が瞳に浮かべ、俺にバレないように袖で拭い、地面に落ちることのなかった涙に気付くことはなかった。
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