第9話 班決めは戦争である

姫乃さんに昼食に誘われた日から、彼女は俺に積極的に話しかけてくるようになった。


俺も最初はオドオドと回答に詰まってしまったりしたのだが、彼女は笑顔で俺が話せるまでゆっくり待ってくれる。


だからこそ1週間ほどそんな感じで話したりしていると、いつの間にか慎二や由依と話してるほどまではいかないが、かなりスムーズに会話ができるようになってきた。


姫乃さんと絡み始めた頃、クラスメイト達が俺の周りを取り囲んだ時も、


「私が神森くんと話したいの!!それとも私が話しちゃダメな理由でもあるの?」


という正論パンチで周囲を黙らせ、その後は何か言いたい視線を向けられることもあるものの、今ではこの前ほど針の筵のような空気ではなくなった件は記憶にも新しい。


そのため昼休みは中庭で彼女とご飯を食べるのが最近の日課になっている。


それと変わった点としては姫乃さんが俺がバイトがある日、percheまで遊びに来るようになった。


どうやら伯母さんと意気投合したらしく、今ではメッセージのやり取りまでしているらしい。


伯母さんは神森由美子という名前なのだが、由美子さん、花奈ちゃんとお互いを呼び合っているのを見た時は度肝を抜かれてしまった。


こんな感じで俺の日常は1人の少女を中心として、一気に見ていた景色が今までより華やかに変わり始めた。


そして6月の頭である今日、天気がなかなか安定しない時期ではあるものの、今は雲一つない青空が広がっている。


「それじゃあ移動教室の班決めと肝試しのペア決めをするぞー」


教室の中に担任の声が響く。


それと同時にクラス中がザワザワと落ち着きをなくし、一気に喧騒に包まれる。


うちの錦正高校では7月に1年生が移動教室に行くイベントがある。


これはクラスメイト同士の親睦を深めるために毎年行われているものであり、2泊3日で山奥の宿泊施設に行き、自然の中で様々なイベントを経験するものである。


その中にはキャンプファイヤーであったり、肝試しといったイベントがあり、彼氏彼女を作りたい思春期の高校生達にとっては無視することの出来ないものである。


そんなわけでこの班決めやペア決めには誰もが躍起になっており、全員が人を殺せそうなオーラをジワジワと出している気までする。


しかし、実際にそんな青春を経験するわけでもない担任はめんどくさそうに話を進めていく。


「とりあえず班は4人で男女2人ずつ、肝試しは男女1人ずつで組めよー。くじ引きにしようかとも思ったけど、くじ作るのめんどくさかったから話し合いで決めろー。じゃ、開始」


担任は手を叩きながらそれだけいうと、教卓に突っ伏すと即座に寝てしまった。


そしてその瞬間、地獄絵図が始まる。


人気者が取り囲まれ、仲がいい人同士で固まり、様々なところから叫び声などが上がる。


コミュ障の俺にとっては仲良い人同士で集まるというのは苦痛のイベントでしかない。


とりあえず班は慎二と由依と組むとしてもあと1人誰かを入れなければならないし、肝試しは由依が良いって言ってくれるだろうか?


クラスに誰か好きな人がいるかもしれないし俺からは少し誘いづらい。


どうしようかと思い、とりあえず目の前の慎二に話しかけようと顔を上げた時だった。


視界の端からトテトテトテと小柄な可愛らしい生命が近付いてくる。


「神森くんっ!!一緒に組もう!!」


その瞬間クラスメイトの嫉妬の感情が押し寄せてくるのが分かる。


あまりの怖さに震えが止まらないものの、話せる人が本当に少ない俺からするとありがたい提案であることこの上ない。


「ひ、姫乃さん!?えっと……良いけど……班かペアどっちの話?」


「どっちも!!」


「う、うん……わかった」


周りからの視線が今度は嫉妬ではなく、確実に殺意を孕んでいる気がする。


男女両方から愛されるクラスのアイドルと誰もが組もうと躍起になっていたのに、その全てを横から掻っ攫ってしまったのだからヘイトを貯めるのは当然と言える。


その後、お通夜のような空気となった教室の中でポツポツと残りのグループやペアが決まっていく。


班は俺と慎二、由依、そして姫乃さん。


肝試しのペアは俺と姫乃さんとなった。


「楽しみだね!!」


ピョンピョン跳ねながら全身で喜びを表現する姫乃さん。


姫乃さんの可愛らしさに癒されながらも、結局慎二とペアを組んだ由依、彼女が俺を見て何か言いたそうな顔をしていることだけ少し心残りだった。






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こんにちは、知ってる人も中にはいるかもしれませんが改めて自己紹介させていただきます。

ごま塩アザラシといいます。

久しぶりに小説執筆のモチベが湧いたのでこうして筆を取った次第です。

小説に関しての知識というものが乏しいため、読みづらいところも多々あると思います。

しかし、そんな私の作品を読み、反応をくださっている皆様には感謝しかありません。

ありがとうございます。

話は変わりますが私は現在就活に勤しむ大学生です。

3月からエントリーシートの提出、説明会や面接などが始まるということもあり、中々大変な毎日を送っています。

皆様も学校や仕事等あると思いますが、お身体にお気をつけてお過ごしください。

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