第2話 お姫様抱っことやら

今自分の目の前にいる少女、彼女の名前は姫乃花奈。


俺と同じ1年A組に所属しており、クラスの中でアイドルのような扱いをされている子である。


テレビに映るアイドルとなんら遜色のない整った顔、それでいて元気で明るく、誰に対しても優しいと人気になるために必要な要素をこれでもかというほど内包している。


それに加えてとても小柄であり、それ故に会話などのときは体全体でピョンピョン跳ねながら表現するため、まるで小動物、さながら子犬のようである。


俺も初めて見た時はこんな可愛い生命体がいるのかとも思ったのだが、ピョンピョンとしながら俺に話しかけてくれた時、やはり会話はまともにすることができなかった。


彼女は他の子と違い、俺と話した後に気まずそうにすることは無かったのだが、こっちの方が申し訳なくなったので距離を置くようにしていた。


そして今目の前で震えて、瞳に涙を浮かべている彼女は普段とは似ても似つかなかった。


つい先程まで襲われていたのだから当然である。


「神森くん……?」


「うん……遅くなってごめん……」


彼女は今突き飛ばされて倒れた状況にある。


とりあえず彼女を起こし、落ち着かせることが優先と考え、手を差し伸べる。


彼女はこの手に一瞬迷った後、自分の手を重ねた。


そして起きあがろうとするも、うまく起き上がれないようだった。


「ごめん……。腰が抜けちゃったみたいで……」


彼女をどうすることが正解なのか。


少し考えた後、思い浮かんだのはとりあえず伯母さんのカフェまで運ぶことだった。


この時間はあまりお客さんもおらず、伯母さんという同姓の人がいれば少しは姫乃さんも安心するのではないかと思ったのだ。


両親への連絡や警察への連絡も、後々はしなければならないが、それより彼女の精神面の安定の方が優先だと判断したためである。


「姫乃さん……えっと……近くに俺の伯母さんがやってるカフェがあるんだけど……。とりあえずそこまで連れて行こうと思うんだけど、どう……かな……?」


「……神森くんも一緒に居てくれる……?」


まさかそんなことを言われると思っていなかった。


こんな状況ではあるものの、俺の女性への耐性は由依や慎二の彼女の瑞稀さん以外とほとんどコミュニケーションを取っていないためかなり柔らかい装甲であるため、思わず少し顔が赤くなってしまうのを感じる。


「……姫乃さんがその方が良いなら……」


「じゃあ行く……。けど、私いま歩ける状況じゃなくて……」


「嫌だったら言ってね」


俺は姫乃さんの両膝の裏と、背中とに手を回し、力を入れて持ち上げる。


「ひゃっ!!」


姫乃さんは身長が140センチあるか無いかという小柄な身体であり、折れてしまわないか不安になるくらいに細い。


そのため、帰宅部の俺でもそこまで苦労することなく持ち上げることが出来た。


「ご、ごめん……、おんぶでも良かったんだけど……その、胸とか当たったりするから嫌だと思って……」


「べ、別に嫌ってわけじゃなくって……ただ、今は私の顔は見ないで……」


「わ、わかった」


お姫様抱っこされながら、両手で必死に顔を隠す姫乃さん。


顔も小さいのだが、手も小さいため、真っ赤に染まった顔が隠しきれていない。


こういうところを見ると、みんなが夢中になるのもわかる気がした。


まるでラブコメのような一幕ではあるが、今はそんな呑気にしている場合では無い。


いち早くカフェまで連れていって、彼女の家や警察への連絡をしなければならない。


彼女も今はこんな状況であるが、精神的にそう余裕があるわけでは無いだろう。


彼女を落とさないように、あまり揺らさないように、しかしなるべく急いでカフェへと向かった。

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