第1話 出会いは予想外

終礼の鐘が鳴る。


担任の連絡事項などを聞き、挨拶を終え、多くの生徒はすぐに荷物を持って部活動へと移動を始めたり、帰宅したりと教室は一気に喧騒に包まれる。


「玲、お前今日はバイトある日?」


「うん」


「そっか、俺は今日は瑞稀と帰るからごめんな」


「わかった」


俺に話しかけてきた明るめの茶髪にピアスをいくつも付けているチャラめのイケメンの名前は山田慎二やまだしんじ


俺の小学生からの幼馴染であり、数少ない友人の1人であると同時に俺のお世話係その1である。


ちなみに瑞稀というのは別クラスにいる慎二の彼女のことである。


そして俺たちが通う錦正高校はそこそこの偏差値がある進学校なのだが、校則はかなり緩く、慎二の見た目が許されている通りピアスや髪を染めることに制限などがなく、周りを見ると派手な見た目をしている生徒が一定数いる。


「玲、私も今日は用事あるからごめんね」


「うん」


「1人で帰れる?ほんとに大丈夫かしら?」


「……」


俺の肩を軽く叩きながら、心配そうな顔をして話しかけてきたのは羽田由依はねかわゆい


肩あたりまでの黒髪に少し入れた編み込み、ワンポイントのピアスと少し派手なネイルが目を引く美少女である。


男子からの人気も高いらしいが恋愛関係の話は聞かない。


由依も幼馴染であり、俺のお世話係その2である。


面倒見がよく、俺も様々なことで助けてもらうのだが、いかんせん俺のことを弟のように見ている節があり、些細なことでもガチめに心配してきたりする。


こんな顔がよく、面倒見も良い由依に彼氏がいないのは恐らく胸が絶壁だか……ひっ、悪寒が……。


とまぁ普段はこの2人のどちらかと帰るのだが、2人にも日常があり、たまにこうして俺1人で帰ることがある。


俺は今日は日直だったため日誌を書きながら帰る2人を見送る。


特別なことは何もなく、日誌を職員室の担任の机に置き、俺も荷物を持って学校を出る。


バイト先はカフェ、percheというところである。


コミュニケーションに難ありな俺は普通の場所では働ける自信がない。


そのため、父の姉である伯母が経営するこのカフェでお世話になっている。


ここは基本的に常連のお客さんしか基本来ない小さなカフェであり、お客さんはみんな俺がコミュ障であることを知っている。


そのためこんな俺でもなんとか働けている。


カフェがあるのは帰り道の途中であり、商店街の路地を曲がった分かりづらく、人通りも多くない場所にある。


客が少ないことの原因の8割は恐らくこの立地に関係しているのだが、伯母さんは儲けが殆どなくても今の静かで知る人ぞ知るといった感じが気に入っているらしいので俺が気にする必要はないだろう。


俺はいつも通り裏道を通って行こうと思ったその時だった。


「やめてくださいっ!!」


そんな大きくはないが、確かに女性の悲鳴のようなものが聞こえた。


俺は武術を習っているわけでもない、ただの一般人でしかない。


本来であれば警察をすぐに呼ぶのが正解なのだろうが、このような出会ったことがないイレギュラーな状況で正常な判断が出来なかった。


声が聞こえてきた方向に向かって俺は咄嗟に走り出していた。


この行動は偽善であることに間違いはなく、何かが出来るわけでもない。


それでも、ここで女性の悲鳴が聞こえたのにも関わらず、知らぬふりをして放置するような人間にはなりたくなかったのだ。


声は大きくはなかったけど、この路地はそんな広いわけではなく、その現場はすぐに見つかった。


細身の身長の高い男が、制服を着た小柄な女の子の腕と口を押さえ付けている。


「やめろぉぉ!!!!!!」


俺は叫びながらその2人のいる場所へと走っていく。


漠然とこんな大声久しぶりに出したな等と下らないことを考える余裕が何故かあった。


男はこちらを振り返ると


「くそっ、バレたか!」


とだけ言うと、女の子を突き飛ばし、近くのフェンスを飛び越えて逃げていってしまった。


今この場での正解は恐らく男を追いかけることではなく、突き飛ばされ、震えながら倒れている女の子を助けることが優先である。


そう考えて俺は女の子の方に駆け寄る。


「大丈夫?」


普段の俺なら絶対に言わないであろう言葉。


しかし、俺はこのような危機的状況でも何も話すことができないような男ではなかったようだ。


今にも泣き出しそうな目で俺を見つめる女の子、その制服は自分が見知ったもの、つまり錦正高校のものであった。


そして目の前にいる女の子自身も、俺ですら名前を知っているような有名人だった。

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