☆第五夜「女の子と男の子」

 眠れない。毎晩、怖い夢を見る。

 そんなでも、夢の中のほうがまし。

 明日が来て欲しくない。いっそ、このままずっと・・・


 気がついたら私は、迷路の中にいる。

 迷路は、わたしの背の倍ぐらいの高さの生垣でできていて、

 全体がどのくらいの大きさなのか、どんな形をしているのかも想像できない。


 少し進むと、迷路なのに矢印のついた道しるべが立っている。

 暗くてよくわからないけど、よく見ると、こう書いてある。


「今の学校への通学路はこっち」

「新しい学校の通学路はあっち」


 私は、いじめに遭っている。

 いじめられてた友だちをかばったら、私が標的になった。いじめアルアルだ。

 友だちをかばったその日のうちに、SNSで一斉攻撃を受けた。無視していると「この子、既読スルーして逃げ回ってるよ」と書かれた。

 次の日から学校に行けなくなった。でも、そんなで負けるのが悔しいから、時々無理して登校した。登校したら、すごく疲れてまた休む。その繰り返し。


 この道しるべは、私の心の中にある二択だ。


「え?」

 なぜか私と同じように、子豚が道しるべを見上げている。

「子豚さん、ここは私の夢の中だよね? あなたは、何でここにいるの?」


「こんばんは。そう、ここは君の夢の中だよ。ぼくは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目。そして、みんなの夢の中を旅しながら、大切な人を探しているんだ」


「そう。見つかるといいね。でも、私が迷っていることは、あなたと話しても、なんの解決にもならないと思う」


「そう。ぼくは話を聞いてあげるくらいしかできない」

「だよね。私だって、どうすればいいかわからない」

「そうかな? 」

「だってそうじゃない! 私は悪くないのにこんなことになって。絶対に負けたくない。だけど・・・このままじゃ、どうにかなっちゃう」

 悔しい気持ちと悲しい気持ちが渦巻いている。でも、その渦も消えかかろうとしている。 


「そうだね。試しに、目をつぶってごらん」

「夢の中だから、もう目をつぶってると思うけど・・・こうかな?」

「そう。で、頭の中に何か浮かんだ?」


 私の頭に中に現れたのは、同じクラスの男の子だ。たった一人、私に心配そうに声をかけてくれている。なのにこないだ、「ほっといてよ!」と怒鳴ってしまった。


「じゃあ、決まったね」

「え、どういうこと?」

「君のワガママを聞いてくれる人がいて、よかった。じゃあ、おやすみ」

「ちょっと待って。訳わからないわ」

 子豚は、いつのまにか迷路の中に消えていた。

 私は、歩きだす気力もなく、その場に座りこみ、そのまま・・・


 深夜にふと目が覚めた。

 さっきのは夢? せっかく眠れたのに。変な夢。

 でも、それほど怖い夢じゃなかった。

 部屋の中を見まわしても、もちろん子豚いない。

 めずらしく、また眠くなってきた。


 たぶん、ここも夢の中。

 私は、駅で電車を降り、運河沿いの道を歩く。五分ほどして予備校みたいな建物に入る。

 そうだ。私は、通信制の学校に転校したんだった。階段を上がり、前の学校とは比べものにならないくらいの小さな教室に入る。「おはよう」というと、みんなが笑顔で返してくれる。


 昨日まで空いてた席に、誰か座っている。その子が顔を上げる。見覚えがあった。前の学校で私を心配してくれていた男の子。


 「え! 君? どうしてここにいるの?」

 「やあ。これからよろしくね。なんだかボクもカースト上位グループの標的にされちゃって・・・めんどくさいから、ここに移ってきちゃった。アハハ」

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