第四夜「化学者のうたた寝」

おっと、こりゃいかん。実験の最中に寝てしもうた。

 徹夜続きで寝不足気味じゃった。

 そろそろ薬ができているころじゃな。

 ・・・ん、ここはどこじゃ? 目の前に道が続いておる。

 

 そうじゃ、これは、研究所を出て街へ向かう道じゃ。

 ん? 今まで気がつかんかったが、三つの矢印がついた道しるべが立っておる。

なになに?

「ベニクラゲはあっち」

「シチメンチョウはこっち」

「タツノオトシゴはこっち」


 こ、これは、いずれもわしが開発した薬ではないか。

 どの薬を世に出していいものか、悩んでおったところじゃ。

 わしは、それぞれの動物の不思議な力を研究して、薬にしてしもうた。


 ベニクラゲは、危険な目にあって死にそうなると、また生まれ変われる薬に。

 シチメンチョウは、男が関わらんでも、女性だけで子どもを授かれる薬に。

 タツノオトシゴは、女性に代わって、男が妊娠・出産してくれる薬に。


 はてさて、どれを世に出していいものやら・・・


 おや? いつの間にやら、子豚がおって、道しるべを眺めておるぞ。


「そこの子豚どの。これはいったいどういうことじゃ?」


「今晩は。ここは博士の夢の中です。ぼくは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目です。」


「ほう。・・・おお、そうじゃった、わしは三つの薬のどれを世に出そうかと迷っておるのだが、君が決めてくれるんかの?」


「いいえ、ぼくは決めません。」

「そうじゃろうな・・・でも、わし一人では、とても決められはせん。」

「そうでしょうか? 」

「そりゃそうじゃろ。どれも今までの常識を変えてしまいそうじゃし、何か不都合がないとも限らん。」 

「そうですか。じゃあ、目をつぶってみてください。」

「えーと、こうじゃな?」

「そうです。で、頭の中に何か浮かびましたか?」


 わしが思い浮かべたのは、白衣姿の娘じゃ。

あの子は、わしと同じ研究の道に進み、寝る間も惜しんで仕事に明け暮れておる。


「じゃあ、決まりましたね。」

「おいおい、いったいどういうことじゃ?」

「じゃあ、おやすみなさい。」

「おいおい、待たんか。」




 おや、ここは?

 いかんいかん、本当に実験の最中に寝てしまっておった。

 子豚どのは・・・そうじゃ、あれは夢じゃったな。

 うーむ・・・なんだかまた眠くなってきたぞ・・・




 ここは、また夢の中か?

 おや、そこで実験しておるのは娘ではないか。子どもを授かったと聞いておったが、無理はしておらんかの?

 ドアが開いて、若い男が入って来おった。おお、あれは婿どのではないか。

 なになに? 昼の弁当を届けに来たと。できた婿じゃ。

 おや、娘は弁当を受け取って、婿殿の膨らんだお腹をさすっておるぞ。

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